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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第4章 神話の正体
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戦の後始末 2

「勝利を喜んでいるところに、あえて水を差すつもりはないわ。皆よく戦ったと兵たちを労っておいて」


「ははっ!」

 ウゼルも去り、一人残ったフィルは戦場を見回した。

 これだけの戦死者をそのまま打ち捨てておくわけにはいかない。夥しい数の亡骸が転がるこの光景を、これ以上メリシャに見せたくない。


 フィルは頭上に手をかざし、力を込めた。その手からポッと生み出された青白い狐火は、次々に分裂し、瞬く間に空を埋め尽くしていく。

 戦場の上に幾重もの同心円を描いた狐火の群れはフィルが手を振り下ろすの同時に、地面へと降り注ぎ、戦場を火の海に変えた。


 あちこちで白い煙が上がり、それらは南…メンフィスのある方向へと流れていく。風は感じない。けれど彼らの魂はメンフィスに帰ろうとしているのか…。

 白い煙の筋を見送りながら、フィルは思った。


 炎に包まれた戦場を見つめていたフィルは、人の気配に振り向いた。

 野営地の方から、リネアとメリシャがこちらにやってくる。


 メリシャがリネアの手を借りることなく、しっかり自分で立っているのを見て、フィルは少しだけホッとした。フィルはふたりに駆け寄り、自分の身体で戦場を隠すようにメリシャの前に立った。


「メリシャ、大丈夫なの?」

「うん。…後始末、してくれてたんだね…」

「まぁ、さすがにこのまま放っておくわけにもいかないしね」


「フィル…」

 開こうとしたメリシャの口に、フィルはスッと指を添えて制した。


「わたしたちは今、ネウトと戦争してる。こちらが手を抜いて戦えば、今度は味方の兵たちに犠牲が出るかもしれない。勝つために敵を倒す。それは仕方のないことなんだよ」


「…ありがとう。そう言ってくれるのは嬉しいけど…」

「けど、は無し。…もしも、アセトの目的が、本当に多くの死者を出すことなら、敵と味方、どちらが死んでも同じことなの。それなら、敵に犠牲になってもらうのが当然。…わたしでもそうするよ。メリシャが気にすることなんて無いんだよ」


「そうなのかもしれないけど、ボクは…!」


「はい、そこまでです。フィル様もメリシャも大事なことを忘れていませんか?」

 リネアが呆れたように苦笑しつつ、二人の会話に割って入る。


「まずは、メリシャを心配して駆け付けてくださった、テト様とネフェル様に、お礼を言いに行くのが先でしょう?」


「そうだね。…ごめん」

「うん。わかった」

 フィルとメリシャは顔を見合わせ、素直に頷いた。


 テトにあてがわれた天幕の中では、テトがネフェルに膝枕されて寛いでいた。


「テト、いい?」

「おー、メリシャ、元気になったかにゃ?」

 天幕をのぞいて声を掛けたメリシャに、テトは寝転がったままひらひらと手を振る。

 

「フィルとリネアまで、みんな揃って何事だにゃ?」

 メリシャに続いてフィルとリネアも入ってきたのを見て、テトはピクッと耳を震わせる。


 そのまま三人はテトに向かい深々と頭を下げた。

「テト、ネフェル、ボクのために来てくれて、本当にありがとう。心から感謝しています」


「にゃにゃっ!」

 メリシャが礼を言い、フィルとリネアまで揃って頭を下げる姿に、テトは慌てて飛び起きた。


「そ、そんなの別にいいにゃ。フィルまで改まって頭を下げるなんておかしいにゃ!なんかぞわぞわするにゃ!」

 テトがそう言っても、フィルは何も言い返すことなく、じっと頭を下げたままでいる…。


「あー、もぅ。わかったにゃ。どういたしましてだにゃ。もういいから顔を上げてほしいにゃ!」


 ようやくフィルたちが顔を上げると、テトはまたごろんとネフェルの膝枕に収まる。

「なんか、感謝されたのに逆に疲れたにゃ。フィルが柄にもないことをするからにゃ」


「わたしに対してだけひどくない?…メリシャを助けてもらったんだから、わたしだって素直に感謝くらいするよ?」


「ムルから助けてもらった恩を少し返しただけにゃ。まだテトの借りの方が多いから、気にしなくていいにゃ」

 さすがに頬を膨らませたフィルを見て、テトは口元に笑みを浮かべた。


 その日の夕刻、連合軍はメンフィスに到着した。

 町に入り、大通りを行進する連合軍の行く先には大きく城門を開いたメネス王城がある。


 しかし、沿道にはネウトからの解放を喜ぶ民の姿はどこにもない。

 王都への凱旋を果たしたメネス軍、初めて勝者としてメンフィスの土を踏んだヒクソス軍、それぞれに高揚した気分でメンフィスに入った両軍の兵たちだったが、静まり返った無人の町に戸惑っていた。

次回予定「戦後の後始末 3」

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