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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第4章 神話の正体
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艦砲射撃 3

「みんな、お疲れ様。本艦の攻撃は成功、よくやった!」

 フィルが言うと、砲兵たちの表情が明るくなる。


「本艦は、別命あるまでここで待機。交代で休息を取りなさい。わたしとリネアはこれからホルエムたちと合流する。もう敵の船は出て来ないと思うけど、攻撃してくる船や下流に向かう船があれば、バリスタを使って撃破せよ。ただし、メンフィスから上流に向かう船には手出しするな。逃げる船はそのまま見逃していい」


 フィルは船員たちに指示すると、ひょいと船縁を乗り越えて大河へと飛び降りた。そして、風を蹴って大河の水面を跳ねるように走り始める。


「お気をつけて!」

「行って来ます」

 艦上に残ったヒクソス兵たちは手を振って見送ってくれた。


 ほどなくして、フィルは大河を横断して川岸にたどり着いた。

 その隣にリネアも着地する。


 ふたりは無言で頷き会うと、町の通りをメネス王城へと向かった。だが、リネアが上から見たとおり、町には全く人の姿がない。それなりの広さの通りを進んでいるというのに、人影もなく物音もしない。


「これだけの町なのに人の姿が全くないってのは、どう考えてもおかしい。バリスタを撃ち込んだ時、王城の中には人影が見えたんだよね?」

「はい。砲弾が落ちた後に、逃げ回るような人影が見えました」


 王城には人がいるのだ。それなのに、日が昇り切ってもシンと静まり返ったままのメンフィスの町、これは異常な状況だと言わざるを得ない。


「リネア、ちょっと寄り道していいかな?」

「先に、町の様子を確認されるのですね?」


 フィルが懸念したのは、メンフィスを奪った南部州軍が大々的に略奪を働いたのではないか…ということだ。勝者による略奪は戦にはつきものだ。占領した町で民家に押し入って金品を奪い、住民を連れ去って奴隷にする。残念だが、それは決して珍しい事ではない。フィルやリネアが知る帝国と魔族の戦争でもよくあった。


 南部の地域は鉱山が多くあると聞いている。鉱山労働者はその劣悪な環境や重労働のため、損耗率が高い。使い捨てにできる労働力が手に入るなら、いくらでも欲しいはず…


 フィルとリネアは手近な家の入口に立って中の様子を伺った。

 大河と王城のほぼ中間に当たるこの一帯は、金持ちではないが、生活に困るほど貧乏でもない、いわゆる中流程度の市民が住む地区だ。これより大河に近くなると、作業場や市場、倉庫など居住用途以外の建物が増え、その間の狭い土地に貧しい者たちが住む。逆に王城に近くなるほど、上級の軍人や官僚、裕福な商人などが住む地区になる。


 メンフィスでの中流家庭の家は、通りに面した間口が約4メートルほど、奥行きが約20メートルほどの細長い敷地を持ち、ほとんどが平屋である。

 屋根はシュロの木と葉で葺かれ、壁は日干レンガ積み、床は土を打ち固め、仕上げと補強のために表面に石灰が塗られていた。


 リネアと無言のまま頷き合うと、フィルは家の中へと足を踏み入れる。通りから家に入ると、最初にあるのは前庭だ。壁で囲まれているが屋根はなく、家畜の飼育や作業場など多目的に使われる。


 前庭の奥からが室内となり、床が一段高くなった広間となっていた。この広間が家の中心で、居間や食堂として使われる。

 フィルとリネアは、前庭を通り抜けて広間に入った。高い位置に明かり取りの窓があり、室内は明るい。敷物が敷かれ、低いテーブルと幾つかの棚が置かれた広間の中は、きちんと整えられていて、荒らされたり、人が争ったような様子もない。


「誰かいないの?!」

 フィルが大きな声で叫んでみるが、返事はない。広間の隣にある寝室らしき部屋をのぞいたリネアも首を横に振っている。

 広間の奥には廊下が続き、その先は裏庭だった。裏庭は台所としても使われるらしく、かまど、水瓶などが置かれていたが、やはり誰もいなかった。

 

 フィルが心配したような、住民の虐殺や略奪などがあった形跡はなかった。しかし、何ら荒らされていない家から人の姿だけが忽然と消えているのは、かえって不気味に感じる。

 一体、何があったのか…町の異常は気になるが、ここであまり時間をかけるわけにもいかない。


 今、この瞬間もメリシャたちはネウト軍と対峙している。まずは作戦通りメネス王城を制圧を済ませてしまわなければならない。


「…仕方ないわね…、先に王城のホルエムたちの様子を見に行こうか」

「はい。メリシャたちのことも心配ですし…」

 フィルとリネアは、町の奥にそびえる王城に向かった。

次回予定「捕らわれの民 1」

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