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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第4章 神話の正体
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カリュブの殲滅戦 1

ネウト軍の主力と対峙する連合軍。

「よし、退却だ!」

 弓兵による援護を受けながら、盾を並べた戦列がゆっくりと後退していく。

 ネウト軍の兵が追撃しようとするが、近づき過ぎると戦列の向こうから矢が降ってくるため、攻めあぐねている状況だ。

 

 メネス・ヒクソス連合軍の本隊は、一旦はメンフィスの目前まで迫ったが、ネウト軍の出撃により徐々に退却し、メンフィスとギーザの中間付近にある『カリュブ平原』に陣を張り、追撃してきたネウト軍と睨み合っていた。

 日に1~2回ほど、攻め寄せてくるネウト軍との小競り合いが起こる。つい先程も、近づいてきたネウト軍に矢の雨を降らせて追い返したところだが、相手も本気の総攻撃をする気はないようで、少し反撃するとあっさりと退いていく。


「こちらの被害は?」

「被害らしい被害はありません。傷を負った者もいますが、皆かすり傷程度です」

「わかった…無理はしないように」


「はっ!…しかしどうも、こういう戦は性に合いませんな…」


「もう少しの辛抱だから、我慢して。これも必要なことだから」

 傍らでぼやくウゼルに、メリシャは苦笑交じりに答えた。


 ウゼルもこの作戦の全体像は理解している。

 フィルとホルエムの別動隊がメンフィスに乗り込むまで、ネウト軍をここに釘付けにしておくのが、当面の役割だ。


 やがて日が暮れ、兵たちが野営の準備を始めたところで、メリシャはアイヘブとウゼルを自分の天幕に呼んで軍議を開いた。


「今のところ、戦況は当初の計画どおりに進んでいると言って良いでしょう」

 アイヘブがまず言った。


 ここまで戦線を退いたのも、ネウト軍に対して防戦するに留めているのも、全て作戦のうち。ネウト軍をメンフィスから引き離すための陽動である。


「しかし、斥候の報告によれば、ネウト軍の数は増えつつあるようです。メンフィスからの増援が到着していると思われ、すでに数は1万を超える勢いだとか」

 ウゼルの報告に、メリシャはやや眉を寄せた。


 当初、メンフィスから出撃してきたネウト軍は4千ほどだった。それが数日たった今では倍以上に増えている。


「予想よりも兵力が多いわね。こちらと同数の8千くらいが最大だと見込んでたけど…」


「それならば、最初に出てきた4千は叩いてしまっても良かったですな」


「でも、それだけの兵力がありながら、最初小出しにしたのはどうしてなんだろう?」

 やや悔しげに言ったアイヘブに、メリシャは疑問を呈す。


 手元にある戦力を全て出したのなら、まだわかる。しかし、ネウト軍はその後数日でこちらを上回る数を動員しているのだ。数的に優勢な敵に対し、戦力を逐次投入するのは、どう考えても悪手である。


「単に出撃準備が整わなかったのでは?」

「それなら、メンフィスに籠城して、出撃準備が整うのを待って出撃すればいいでしょう?」

 メリシャの指摘に、アイヘブとウゼルも首をひねる。


 最初に出てきた4千の兵を失っていたら、ネウト軍の戦力は大きく落ちていたはずだ。こちらが防戦主体の作戦をとった結果、運良く失策が帳消しになったともとれるが…。


「ネウト軍の意図がわかりませんな。…敵には、まともな指揮官がいないのかもしれません」

「そうかもしれないけど…敵の兵力は予想より多い。せっかく農繁期を狙って仕掛けたのに、相手の動員力を見誤っていたのかな…?」

「まさか、連中がこれほどの兵力か動員できるとは…」

 アイヘブは歯切れ悪く応じた。

 

メンフィスを攻めるに当たり、ホルエムたちはメンフィスに駐留する南部州軍の兵力は多くないと想定していた。


 南部州軍の本拠地は遥か上流のテーベだ。まず大人数の兵を移動させるだけでも大変な労力がかかる。アイヘブ率いるメネス軍主力を王都から引き離す計略を用いたのも、まともに王国軍とぶつかるだけの戦力がなかったせいだと推測される。それが完全に誤りだったとは思えないのだが…


「いいよ。戦で読みを外されるのは良くあることだし、こちらの作戦が破綻したわけでもない。本気になったネウト軍がどれほど強いのかはわからないけど、ボクたちの兵だって十分な訓練を積んだ精鋭なんでしょう?」


「当然です」

「言われるまでもない」

 ウゼルとアイヘブが揃って頷いたところで、天幕にシェシがやってきた。

「カリュブの殲滅戦 2」

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