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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第4章 神話の正体
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メンフィス沖会戦 1

フィルが造らせた弩砲戦艦の威力とは…?

 連合軍がギーザを出陣して5日後の朝。


 連合軍本隊とネウト軍が開戦したとの知らせが届き、出撃のタイミングを待っていた船団は、フィルが乗る弩砲戦艦を先頭にギーザを出航した。

 それぞれ大きく帆を張って緩やかな大河の流れに逆らい、上流を目指す。


 少々話がそれるが、この地を潤す大河イテルは、船の運航に極めて便利な特徴をもっている。

 大河は南から北へと流れている。

 しかし、この地を吹く風は北の海から南へと吹いているのだ。

 時期によって風の強弱はあるが、風向きは年間を通してほぼ変わらない。 


 つまり、下流へ向かう船は大河の流れに乗れば良く、上流へ向かう船は帆を張って風を捉えればいい。帝国の軍船のように大勢の人間に櫂を漕がせる必要なく、大型の船でも上下流へ自在に運航できる。

 この地の文明が大河に沿って南北に細長く分布しているのは、大河を使った舟運が非常に容易であったことも、その一因と言えるだろう。


 帆を膨らませて水面を進む戦艦の上で、フィルは新たに用意した『砲弾』を確認していた。先の戦いでバリスタから撃ち出されたのは、青銅の鏃を取り付けた短槍だけだったが、今回の戦いに備えて新たに2種類の砲弾が準備されていた。


 ひとつは、人の頭ほどの大きさの石球だった。表面は荒削りで形も少々歪ではあるが、どうせ使い捨てになるのだから大きな問題はない。材料の石は、バステト神殿にあったムルの残骸を再利用していたりする。


 もうひとつは、大型の火矢である。木製の柄の先に青銅棒を連結し、青銅棒の部分には天然アスファルトを塗り込んだ布が幾重にも巻かれていた。火がバリスタ本体に引火しないよう、青銅棒の部分がバリスタの先端から前に突き出すよう長めに作られていて、発射の直前に点火する。


 この火矢ができたのは、メネス王国でミイラの防腐剤として使われていた天然アスファルトが、帝国で『燃える水』と呼ばれていた油と同質のものだとフィルが気付いたからだ。おかげで、着弾した後も長時間燃え続けて延焼を拡大させ、しかもその炎は水を掛けても容易には消えないという、厄介な火矢が誕生した。


 ギーザからメンフィスまでは、船でほぼ1日の距離である。メンフィス到着が夜になるよう、途中で速度を調整しながら船団は進んでいる。

 そして、初めての敵との接触は、その日の夕刻、ちょうど日没頃のことだった。


「フィル様、前方に船です」

 隣にいたリネアが囁くように告げた。顔を上げて前方を見ると、水面に黒い点のようなものがポツポツと見えている。おそらくネウト軍の水軍だろう。待ち伏せされたとは思わないが、さすがにメンフィスまで敵を素通りさせるほど杜撰な警備ではないということか。まだかなり遠いように見えるが、互いに近寄る方向に進んでいるのだから、会敵までさほどの時間はかかるまい。


「総員、砲戦準備!後方の船団には、待機するよう合図を!」

 大声で命じたフィルに、乗組員たちが慌ただしく動き始めた。戦艦にはバリスタを操る砲兵のほか、各部族から選んだ30名の船員が乗っている。彼らも斥候兵と同様、体格に恵まれず戦士としては冷遇されていた者たちだ。


 この世界では大型の艦とは言え、船の上は狭い。大柄な戦士よりも斥候兵のように小柄で機敏な兵の方が役に立つというわけだ。


 武技ばかりを偏重していた以前のヒクソス戦士団では活躍の場がなかった彼らも、自分達に合った働き場所を得て、熱心に操船やバリスタの扱いを学び、十分な技量を備えるに至っている。


「フィル様、前方のネウト船団、数は20。こちらに接近中」

 マストの上から見張りが叫ぶ。フィルは、了解と言う代わりに軽く手を上げ、周囲の兵に命じる。


「バリスタには全門火矢を装填せよ!」

「ハッ!」

 キリキリとギアの音を立ててバリスタの弦が引かれ、頑丈な木箱から火矢が取り出されて、慎重にバリスタのレール上にセットされる。


 ネウト船団との距離は、急速に縮まっていく。

 反面、ホルエムやメネス兵たちが乗っている後続の船は、帆を絞って速度を落とし、そのまま前進する戦艦との距離がかなり開いていた。

 フィルは、自らが乗るこの弩砲戦艦1隻だけで、ネウトの船団と戦うつもりだった。


「左舷砲戦用意、旋回角10、仰角5」

 フィルの指示に従い、真っすぐ船首方向を向いていた5基のバリスタが、砲兵たちの手でやや左へと向きを変え、わずかに上を向く。


 旋回する台座と、本体を支える砲座にはそれぞれ角度を示す線が刻まれており、それを目安にすれば、全ての砲を同じ方向に向けられるようになっていた。

 

「ネウト船団との距離、まもなく300」

「全砲門、発射準備よし!」


「面舵10、帆桁を舳先方向に回転!」

 戦艦はやや右へと舵を切り、左側の船腹をネウト船団に見せていく。


 同時に、帆を張っていた帆桁がくるりと90度向きを変え、船の中心線と平行になる。帆が後方からの風を受けられなくなり、戦艦は川の流れに押されて速度を落とし始めた。

次回予定「メンフィス沖会戦 2」

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