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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第4章 神話の正体
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弩砲戦艦 1

ネウトとの戦争に備えて、フィルが造らせた新兵器…。

 それから更に三月(みつき)ほどがたち、季節は冬季の終わりを迎えようとしていた。


「うんうん、なかなかの仕上がりだね」

 満足そうに辺りを見回しながら、フィルはリネアを連れて甲板の上を歩いていた。


 アヴァリスの港に係留された一隻の木造軍船。全長約30メートル、幅約6メートルほどの軍船に鎮座するのは、先のメネス戦役でも使用した攻城弩砲バリスタである。

 船の中心線上に一列に並んでいるのはバリスタ5基。陸上を移動させるための台車から、甲板の一部を切り抜いて置かれた円形の台座に載せ換えられており、下に敷かれたコロによって、船の左右舷どちらにも向けられるようになっていた。

 

 メンフィスを攻略するにあたってのヒクソス軍の弱点、それは水上戦力がないことだった。ヒクソスの船は、束ねたパピルスを船型に整えて造る葦船が主で、大きな木造船を建造する技術はまだない。


 メンフィスを奪った南部の軍勢は、船を使って大河を下って来た。つまりネウト軍は多くの船を保有している。戦場となるギーザからメンフィスの間は、大河イテルに沿った地域であり、船を使った作戦も当然警戒しなければならない。

 それに、メネス・ヒクソス連合軍の攻撃目標であるメンフィスもまた大河河岸の都市。水上戦力の重要さは、当然フィルも気付いていた。


 そこでフィルは、同盟に正式調印する際、ヒクソスに軍船を譲ってくれるようホルエムに依頼した。メネス軍が保有していた軍船の大半は、前の侵攻の際にリネアのブレスで別動隊とともに消失しており、残った数少ない軍船は貴重であったが、それでもホルエムはそのうちの1隻を譲ってくれた。そして出来上がったのが、この軍船である。  

 

 古代から中世までの水上戦闘は、接近して行う白兵戦が基本である。敵艦に体当たりし、直接兵を乗り込ませて敵艦を制圧するのである。帝国の海軍が使っていた軍船の中には、兵を敵艦に送り込むため『コルウス』と呼ばれる鉤爪付きの橋のようなものを備えているものもあった。

 投石器や小型のバリスタなどが搭載されることもあったが、命中精度が悪い上に軍船を破壊するには威力不足でもあり、接近戦が廃れていくのは火砲が発達して十分な威力を持つに至る近世以後のことである。


 フィルが軍船に積み込んだバリスタは、攻城用の大型で高い威力を持つのだが、その分大きくて重いため機敏に動かすことが難しく、また、一発撃つと再装填に時間がかかるという欠点があり、その間に敵艦に接近され、乗り込まれると為す術がない。


 だが、それでもフィルが軍船にバリスタを搭載させた。数の劣勢を補うためには、長射程を生かして敵の手が届かないうちに相手を始末する必要があるから。そして…。


「フィル、バリスタをこんなに載せたら、兵を乗せられなくなっちゃうんじゃないの?」

「兵を乗せるなら大きな葦船で事足りるじゃない。けど、バリスタの運用にはしっかりした足場が必要だから、このくらいの船じゃないと無理なんだよ」


「だから、どうしてそこまでバリスタにこだわるの?」

 眉を寄せたメリシャに、フィルはくるりと振り返った。


「それはねー」

 やや楽しそうにフィルはメリシャに耳打ちした。それを聞いたメリシャは目を丸くし、思わず開きかけた口を押さえる。


「なっ…そんなこと考えてたんだ?!」

「ね?犠牲少なく、メンフィスを取り返すにはいい方法だと思わない?」

 そうフィルに言われてしまうと、メリシャも反論できなかった。フィルとリネアの神獣の力を当てにせず、ネウト軍の一泡吹かせるとしたら、確かに有効な方法だとメリシャも思う。


「こんな船、帝国でもサエイレムでも見たことなかったけど、何て呼べばいいんだろうね?」

「弩砲を積んだ戦艦(いくさぶね)だから、弩砲戦艦ってのはどう?…こいつでネウトの連中を驚かせてやるわ」

 戦艦の船首に立ち、フィルは南…大河イテルの上流に目を向けた。

次回予定「弩砲戦艦 2」

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