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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第4章 神話の正体
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魔術の女神 2

ハトラが話したイシスの伝説は、何を意味するのか…?

「私が知るのはそこまでです。王国誕生後にイシス神がどうなったのかは、何も伝えられておりません」

 ハトラは軽く首を横に振りつつ、話を終えた。


「上メネスの…なるほど…」

 フィルは小さく頷きながらつぶやく。


 最後の神を始祖にもつ云々あたりはどうでもいい。王朝の正統性を喧伝する方法として神を祖先とすることはよくあることだ。

 だが、そこまでの神話には幾つかの手掛かりがある気がした。特に、イシスが元々メネス…この地域の神ではなく、他の土地からやって来て、後に神に叙せられたというのは引っかかった。


「イシスが神でなかったのだとしたら、人間だったのかな?」

「それはわかりません。しかし、魔女と呼ばれたイシス神は、今の私達のように神の力に頼らずとも、自身の力だけで魔術を使うことができたとされています。人間にそんなことができるでしょうか?」


「それは、さすがに無理だと思います」

「わたしもそう思う」

 リネアの言葉にフィルも同意した。


「…だとすると、神でなくても、わたしたちみたいな『人外の何か』の力を持っていたか、メリシャみたいに神だった一族の先祖返りだったのかもしれないね」

「魔術の根源だと言われる『神の力』とは、フィル様やリネア様かお持ちの神獣の力と同じなのでしょうか」


「全く同じなのかはわからないけど、似てはいると思う。わたしの感覚での話だけど」

「そうなのですか…」


 それを確かめるために、魂の井戸を調べたいところだが、オシリス神殿は今や敵地。調べるには、まずメンフィスを取り戻す必要がある。


「さて、ハトラが教えてくれたイシスの話と リネアがセトから聞いた話を整理すると…」

 フィルは、それぞれの話の内容を踏まえ、イシスについての考察を口にした。

 

 まず、イシスがメネスにやってきたのは、セトがアペプと戦って冥府の底に落ちた後のことだ。だからセトはイシスの存在を知らなかったし、イシスがメネスに魔術をもたらした逸話にセトは登場しない。


 オシリスとイシスが夫婦神となったこと…これは言葉どおり受け取っていいのかわからない。上メネスで崇められていた魔女イシスと下メネスの神であるオシリスとの政略結婚であるともとれるし、どちらかによる侵略の結果である可能性もある。…後に上メネスが下メネスの版図になったことを考えれば、下メネスが上メネスを侵略したと考えるのが妥当だろう。

  

 そして、オシリスが冥府の神となったこと…この時にオシリスは殺され、身体と霊魂に引き裂かれたのだろう。身体はバステト神殿のムルの地下に、霊魂もどこか…一番疑わしいのは、魂の井戸だが…に封じられているはず。オシリスを殺し、その身体を隠したのがイシスだとするなら、テトを同じムルに閉じ込めた犯人もイシスである可能性が高い。どちらも今のところ確証はないが。


 だが、そうするとイシスはなぜメネスの民に魔術を授けたのだろうか。イシスにとってみれば、上メネスを侵略した下メネスの民は憎むべき仇のはずだ。さらに、バステト神殿の神官たちにテトの加護と称して身体強化の魔術を教えたのもイシスならば…その目的は何だったのだろうか。


 イシスの憎しみは神にのみ向けられ、地上の人間には恩恵を与えたのだと考えることもできるが……こればかりはイシスに直接確かめでもしない限り、わからない。行き詰まった推測に、フィルはため息をつく。


「イシスは、今もどこかにいるのでしょうか…?」

 ポツリとつぶやいたリネアの声に、フィルはハッとした。


「…アセト!」


 その名にリネアも気が付く。 

「あの人は、自身の力だけで魔術を使いました」

  

「まさか、あの使者がイシス神だと?」

「もしくは、イシスの力を分け与えられた眷族か…いずれにせよ、自身の力だけで魔術が使える者が、ただの人間であるはずがないと思うけど?」


「確かに、仰る通りです…フィル様、ネウト王国にイシス神が味方しているのなら、オシリス神殿がヒクソスへの侵攻に賛成したのも、彼女の差し金でしょうか?」

「かもしれないね。…アセトに誑かされているのかもしれないけど。急にネウトに恭順した州候たちみたいにね」


 しかし、アセトがイシスだとして、謀反を煽った目的がわからない。

 だが、メネス軍がネウト軍を押し戻すことで揺さぶりをかければ、アセトが何か動きを見せるかもしれないとフィルは考えた。

次回予定「魔術の女神 3」

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