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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第4章 神話の正体
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セトの話、その考察 2

セトの話を信じるならば、テトは何かを知っているはずなのだが…

「うん。オシリス神は言ってみれば封印された状態にあるんじゃないかな。体と魂が別々に…普通の人間なら死んじゃうところけど、神は霊体の側が本体みたいなものだから、魂を取り戻せば身体だって元の姿を取り戻すかも。…わたしたちだって、人の姿と神獣の姿を自由に入れ替えられるんだし」


「それでは、オシリス神の魂もどこかに隠されていると?」

「あるじゃない?明らかにそれっぽい場所が」

「魂の井戸…!」

「当たり」

 にこりとフィルは笑う。


「すぐにでもオシリス神殿の魂の井戸に行って、詳しく調べてみたいところだけど、今の状況だとちょっと難しいかな…」

「そうですね。ネフェルがいなくなったことで騒ぎにもなっているでしょうし」


「仕方ない。それは、ホルエムが頑張ってネウトからメンフィスを取り返した後にしようか」

「はい。それがいいでしょう」


「…テトが当時のことを思い出してくれたら、色んな謎が解決するんだけどなぁ…」

 フィルはぼやく。


「でも、テト様は、棺の砂からオシリス神の気配に気付きました。それは、過去の記憶を思い出せなくても身体が感覚として覚えていた、ということなんでしょうか」

「そうだと思うよ…だとしたら、テトの記憶は完全に奪われたんじゃなくて、封じられているのかもね…」

「だったら、何かのきっかけで思い出せるかもしれませんね」 


「リネアは、テトとオシリスにひどいことした犯人、誰だと思う?」

「…少なくとも、人間やヒクソスの民にそんなことができるとは思えません。やはり同じ神か、それに近い者ではないでしょうか?」


「うん。わたしもそう思う。…だとしたら、それは?」

「フィル様は、もう目星がついているのですか?」


「証拠があるわけじゃないけど、こいつが怪しいなってのはあるよ」

「…私も一応、あまり自信はありませんけど」


「じゃ、せーので答え合わせしようか」

「わかりました」

「せーの…」


「「イシス!」」

 ふたりの声がぴたりと揃った。


「やっぱりそうだよね」

「はい。アペプと一緒に冥府の底に落ちたセトには、テト様やオシリス神を害することは出来ません。セトがオシリス神を殺したというのは全くのでたらめです。そのセトを討ったというイシスが、おそらくオシリス神話を『創作』したんじゃないかと…」


「そうそう。どうしてそんなことをしたのか、イシスの目的はまだわからないけど、嘘の神話で自分を正当化しようとしてるんだから、一番怪しいよね」


「セトにイシス神のことも聞いておくべきでしたね…」

「とりあえず、テトに聞いてみようか。神話ではオシリスの妻ってことになってるから、ネフェルが何か知ってるかもしれないし」


「そうですね。…テト様には、セトから聞いた事を全て話すのですか?」

「うん。テトも含めて皆に話そうと思う。もしかしたら、わたしたちのこれからにも影響するかもしれないし」


「これからに、ですか?」

「うん。神話とは言っても、セトの話は実際に過去に起こったことだろうし。テトやオシリスだって実在してるわけだしね……それに、ここしばらくの間に、テトを解放して、オシリスの棺を見つけて、魂の井戸から巫女長のネフェルを引き離した。つまり、長い間連綿と維持されていた仕組みを、わたしたちが一気に壊しちゃったんだから、何かが起こるかもしれないと考えておいた方がいいと思うよ」


「それは、この世界の神に関わることなんでしょうか…?」

「うーん、そうじゃないかな。だから、南部の謀反にオシリス神殿が絡んでるのが、なんか気持ち悪いんだよね」


「まさか、それも含めて全てが繋がっている、と?」

「…もしそうなら、すごく面倒くさいよー!」

 フィルはそう言うなり、甘えるようにリネアの胸元に顔をすり寄せた。

 

「はぁ…リネアのいいにおい…安心する。…難しい話はここまでにしようか」

「くすぐったいです、フィル様」

 そう言いながらも、リネアはフィルを胸に抱き締めて愛おしげに撫でる。


「フィル様…あの…セトを召喚する儀式に呼ばれてしまったのは、きっとセトと同じ竜の力を持つ私がいたせいだと思います。巻き込んでしまって、ごめんなさい」


「そうかもしれないね……でも、巻き込んだ、なんて謝らないで。それを言ったら、一番最初にリネアを巻き込んじゃったのは、わたしなんだから。…わたしはこれからもリネアを巻き込むよ。だから、リネアもわたしをいくらでも巻き込んで。ずっと一緒に生きるって誓ったんだから、そんなの当たり前だよ」


 リネアの胸元で顔を上げ、フィルは笑う。 

「…あの夜、ひとりで行くなって怒ってくれたのは、リネアでしょう?…だから、もしリネアだけが召喚に応じて、ひとりでこの世界に行ったとしたら、わたしは怒ると思うし、絶対にリネアを追いかけるよ。何があっても、どこに行くのでも、わたしはリネアと一緒じゃなきゃ嫌だよ」


「えぇ…私もそうです。絶対に離しません。ずっと一緒です…フィル様…」

「…ん…」

 リネアとフィルは、微笑みつつ口づけを交わし、互いの身を寄せる…。


 ……翌朝、珍しく起きて来ないフィルとリネアを呼びに来たフルリは、慌ててシーツを胸元まで引き上げ、顔を真っ赤にするふたりに首を傾げた。

次回予定「同盟の使者 1」

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