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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第4章 神話の正体
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異邦神セト 3

オシリス神話で語られるセトと全く違うセトの過去。食い違いは他にも…

「仮に翼を失っていなくとも、我は帰る訳にはいかぬのです。…我はアペプに勝ちましたが、殺しきることが出来ませんでした。アペプは未だ滅んではいない。ただ、冥府の底に閉じ込めたに過ぎないのです。我はその番人として、アペプの身が朽ち果てるまで、見届ける所存」


「もしや、セトは今も冥府の底にいるのですか?」

「はい。こうして話ができるのも、竜王ティフォンの力を持つリネア様とであればこそ。本来ならば、冥府の底から出ることはもちろん、外の者と言葉を交わすこともできません」 


 リネアが聞いたセトの話は、ヒクソスに伝わるセトの神話と大筋で一致する。アペプを討った後にセトがどうなったのか、神話では何も語られていなかったが、それはセトが冥府の底に姿を消した為か…


 セトの話が本当だとすれば、ねじ曲げられているのはメネスに伝わるオシリスの神話ということになる。…では、セトとオシリスの関係は、本当はどうだったのだろうか。


「セト、オシリスという神のことは、ご存知ですか?」


「はい。オシリスは、我と共にアペプと戦った神の一人です」

 セトは懐かしそうに言う。どうやら彼の中では、オシリスとの関係は険悪な関係ではないらしい。


「オシリスと、そしてバステトがいなければ、我はアペプに敗れていたでしょう」


「え?」

 リネアは思わず声を上げた。


「テト様…いえ、バステト様もアペプと戦ったのですか?」


「はい。バステトは本来戦いに向かぬ神なのですが、大河の流れを操り、オシリスが開いた冥府の門の中にアペプを押し流したのです」 


 どういうことだろう…リネアは困惑した。


 テトは、オシリス神のことはよく知らないような口ぶりだった。共ににアペプと戦ったのなら、オシリスのことを知らないはずがない。


 いや…テトは、ムルの地下にあった石棺からオシリスの気配を感じ取っていた。オシリスのことをよく知らないのなら、どうしてそれがわかったのか。


 それに、セトが竜であることや、セト神話の元になったアペプとの戦いの経緯だって知っていたはずなのに、どうして素知らぬ様子でセト神殿までついてきたのか。


 テトのことは信じたい。けれど辻褄が会わないことを多すぎる。リネアの頭の中で、次々に浮かぶ疑問が渦を巻く。


 …フィル様や玉藻様に相談できたら…リネアは内心つぶやき、すぐに軽く首を振った。

 ここには自分しかいない。できる限りセトから手がかりを引き出さなくては…!


「リネア様、どうかなさいましたか?」

「いえ、バステト様とはお会いしました。でも、アペプとの戦いのことは、何も仰っていなかったので」


「おぉ、バステトは今も健在なのですね」

「はい。バステト様はお元気です。実は今、地上のセト神殿に一緒に来ているのですが…セトやオシリス神のことも、よく知らないような口ぶりだったので」


「…アペプとの戦いから、ずいぶんな時間がたっていますし、気まぐれな方でしたから。…それに、アペプとの戦いにまつわることは、あまり話たくなかったのかもしれません」

「そう…ですね…」

 リネアは一応頷いたものの、やはり釈然としない。


「…そうだ、オシリスもまだ健在なのでしょうか。…いつの頃からか、再生の輪に戻るべき死者の魂が冥府の底に落ちて来るようになったので、彼に何かあったのではと気になっていたのですが、何かご存知ではないですか?」

 リネアは、少し迷ったものの、テトとオシリスのことをセトに話すことにした。


「セト、落ち着いて聞いて下さい」

 そう前置きしたリネアは、テトがバステト神殿のムルにずっと閉じ込められていたこと、そのムルの地下から、オシリスの棺とその遺骸が見つかったことを話した。


「なんと…!」

 セトは呆然とする。


「他の…他の神々は、太陽神ラーは何をしていたのですか?」

「テトの話では、他の神々はずっと昔に自我を捨てて、この世界と一体になり、地上を去ってしまったのだそうです」


「どうしてそんなこと…」

 セトは、何かに耐えるように固く目を閉じ、拳を握り締めた。


「私にも、バステト様やオシリス神に何が起こったのかはわかりません。だから、セトの神話に何か手がかりがあるのではないかと、ここを訪れたのです」

 リネアは、オシリス神話のことはセトに黙っていることにした。セトがオシリスを殺したことになっているなどと知れば、セトは深く怒り、嘆くだろうから。


「リネア様をお手伝いしたいのですが、我は冥府の底より動けぬ身。…お力になれず申し訳ありません」

「そのお気持ちは有り難く思います。…しかし、私もティフォンの力を受け継ぐ身。誰の仕業かはまだわかりませんが、地上を好き勝手にさせるつもりはありません」

 リネアは力を込めて言い、笑って見せた。


「では、私はそろそろ戻ります。いずれまた」 

「リネア様、ご武運を!」

 ハッと気がつくと、リネアは壁画に指を触れた状態で、セト神殿の本殿にいた。

次回予定「セトの話、その考察 1」

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