神殿での再会 2
フィルたちはバステト神殿に到着し、テトとネフェルに再会する。
「フィル様、あの…ネフェル様がどうしてここに?」
巫女長であるネフェルは、オシリス神殿から外に出てはいけない存在のはず。それが、ヒクソス領内にどうして?…当然の疑問である。
「……さらってきちゃった」
あはは…と、猫でも拾ってきたかのように言うフィルに、アミンは思わず頭を抱えた。
「メンフィスがネウト王国の手に落ちた以上、ネフェルをオシリス神殿に置いといたら、色々面倒なことになりそうじゃない?」
「それは…そうですけど」
確かに、ネフェルが神殿にいなければ、メンフィスでは魔術が使えなくなる。それにネフェルは、メネス王国の宰相となったハトラの娘で、ファラオであるホルエムとも親しい乳兄妹、メネス王国に対する人質としての価値は最上級だ。
だが、ヒクソス領内に匿ってしまえば、ネウト王国も簡単には手を出せなくなる。それを考えれば、フィルが先手を打ってネフェルをさらってきたのは最善だとアミンも納得した。
一行は、ムルの中庭から神殿内のテトの部屋へと移動する。
聞いたところでは、ネフェルの部屋もテトの部屋の近くらしい。フィルからの預かり人ということで、ネフェルも厚遇してもらっているようだ。あとでシノアにお礼を言っておこうとフィルは思った。
「さ、入るにゃ。皆、楽にするにゃ」
部屋の中には厚い敷物が敷かれ、ヒクソス王城のフィルたちの部屋と似たしつらえとなっていた。神殿にはなかった様式だが、テトが希望してこういう部屋にしてもらったのだ。
テトを上座においてフィルたちが腰を下ろすと、当然のようにリネアがお茶とお菓子を取り出し、テーブルに並べた。
「テト様、林檎のお菓子、作ってきましたよ」
皿のような生地の上に蜜に浸した林檎の果肉を盛り付けて焼き上げた菓子、フィルの好物でもある帝国由来の『トゥルト』は、アミンも初めて見る菓子だった。
焼きたてのように熱を保つ『トゥルト』から立ち上る甘い香りに、テトの目が輝いた。
「待ってたにゃ。リネア、早く食べたいにゃ」
「はい、ただいま」
くすりと笑ったリネアが手際よく菓子を切り分けるのを、テトはそわそわした様子で眺めている。
「…フィル様、あの方はこの神殿の偉い方なのでしょうか」
アミンは、隣のフィルにそっと尋ねる。その視線はテトに向いていた。
「まぁ、そうだね。一番偉いってことで間違いないよ」
ややもったいぶった様子でフィルは答える。
「まだ幼いように見えますが、ネフェル様のような何か特別な力をお持ちなのですか?」
「うん。テトはこの神殿の主、バステト神だからね」
「え?…神…さま?」
ぽかんとした表情でつぶやくアミン。
「そう、神様。この世界の正真正銘の神様だから、神獣のわたしやリネアよりも格上ってことになるかな。…まぁ、テトはあんまりそういう序列を気にする性格じゃないから、極端に畏まる必要は…」
フィルが答え終わるよりも先に、アミンは凄まじい勢いで壁際まで後ずさり、ぺたりと床に伏せた。
ただ残念なことに、幸せそうにトゥルトを頬張っているテトは、畏れ多さに縮み上がっているアミンに気付いてはいなかった…。
「ほら、アミンも戻っておいで。そんなに畏まる必要はないから」
フィルに言われて、アミンは恐る恐ると言った様子でテーブルに戻ってくる。
「テトは、この神殿の主神だけど、さっき降りた中庭にあったムルの中にずっと閉じ込められてたんだよ。…ネフェルみたいにね」
「神様を閉じ込めていたんですか?」
「えぇ。何百年も前のことらしいから、誰がやったのかはわからない。テトも覚えていないって言うし。でも、ネフェルや歴代の巫女長がオシリス神殿で魔術の要とされていたのと、何か近いものがあるんじゃないかと思う。…そもそも、魔術を使う時には、一体何の力を借りているんだろうね?」
「…そうですね…」
フィルの指摘にアミンも考え込む。一般には『神の力』と呼ばれていた魔術の原動力。魔術をどう使うかの勉強はしてきたけれど、その元になる力の正体なんて考えたことがなかった。
次回予定「神殿での再会 3」




