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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第3章 メネス戦役
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説得と脱出 3

ネフェルの承諾を得て、『魂の井戸』を調べるフィルたち。

「……いいの?」

「いい。でも壊すのはダメ…だよ」

「あはは、いくらわたしでも、いきなり壊すような真似はしないよ」


「…フィルは、この場所のことをあまり良く思ってない」

 笑いながら立ち上がりかけたフィルの身体が、ピタリと止まった。


「ネフェル」

 フィルは、そのまま元の場所に腰を降ろす。


「…正直に言うわ。ネフェルをここから連れ出したい理由は、さっきメリシャが話した理由の他にもう一つある。わたしは、この世界の『神の力』とやらが、わたしたちにとって危険なものだと思っている」

 フィルは自分が抱いている懸念を、ネフェルに正直に話しておくことにした。


「危険…?」

 フィルは、ペルバストのバステト神殿で起こったことをかいつまんで話した。主神たるテトがムルに幽閉されていたこと、テトの祭具シストルムの力が神獣たるリネアを苦しめたこと、メリシャに殺された大神官の死体が動いてフィルたちを攻撃してきたこと。


「ネフェルは、『神の力』を地上にもたらす巫女。…ネフェルにそのつもりがなくても、ネフェルが扱う『神の力』は、わたしたちを傷つけてしまうものかもしれない。だからわたしは、このムルからネフェルを引き離しておきたいの」

 そこまで言ってフィルは沈黙する。リネアは目を伏せ、メリシャは気まずそうな表情を浮べた。


 ネフェルを連れ出すのは、自分たちの障害になるかもしれないから。

 身勝手と受け取られかねない話だが、フィルは誤魔化すことなく正直に言った。ネフェルを騙して連れて行こうとは思わない。


 話を聞いて納得してくれるならありがたい。けれど、もし拒まれたら力づくになる。ネフェルに恨まれるなら、それは甘んじて受けよう。それがフィルの気持ちだった。


「……それなら、やっぱりネフェルはフィルたちと一緒に行くべき」

 しばらくして、ネフェルはいつもと変わらぬ口調で言った。


「『神の力』が何なのか、ネフェルにもよくわからない。そんなこと、考えたこともなかった。けど、そのせいでフィル達の身が危なくなるなら、それは嫌。…フィルが見せてくれた外の景色はとてもきれいだった。フィルは、神殿の中だけで一生過ごすなんて、勿体ない。神殿から出てもいいと言ってくれた。…ネフェルにそんなことを言ってくれたのは、フィルが初めて。嬉しいと思った。だから、フィルを信じる」


「ありがとう。…信じてくれたネフィルを裏切ることは決してしない。わたしの名に懸けて約束する」

 フィルとリネアはスッと背を正し、揃ってネフェルに頭を下げた。


「フィルの言う通り。ネフェルの身の安全は必ず守るし、ホルエムたちのことも見捨てたりしない。ボクもヒクソス王として約束するよ」

「…うん。よろしく」


「もちろん、任せといて」

 ポン、軽く胸を叩くメリシャに、フィルとリネアも微笑んだ。


「さて、あんまり長居して見つかると厄介だから、さっさと井戸を調べてしまおうか」

 笑いながら立ち上がってステージに上がるフィルに、残る3人もついていく。


「これが、魂の井戸?…見た目は、まんま井戸だね」

 意外そうにメリシャが言った。

 ネフェルの寝台の裏にある魂の井戸の姿は、フィルが前に見た時のまま、特に変わった所はないように見えるのだが…。


「フィル様、…これが『神の力』が湧き出るという井戸なのですか?」

 リネアは厳しい視線を井戸に向けている。


「私にも、あまり良いものには思えません。何というか、死の気配のようなものを強く感じます」

「やっぱり…リネアもそう思うのね…」


 前に来た時から、井戸に立ち込める死の気配は、フィルも気になっていた。最初は、オシリスが冥府を司る神という話だったため、そういうものかと思っていたが、テトが閉じ込められていたムルを見た後だと、どうも違和感を感じる。


 バステト神殿のムルは、中に閉じ込めたテトから力を吸い上げるものだった。そのため、テトは幼女の姿しか維持できないほどに力を失っている。

 それに、バステト神殿は地脈の真上に位置している。もしかすると地脈の力も利用していたのかもしれない。

次回予定「説得と脱出 3」

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