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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第3章 メネス戦役
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ネフェル再訪 2

ムルの最奥、ネフェルの寝所となっている地下室へ。

「さすが。わたしより威力あるね」

「そうなんでしょうか…」

 リネアはやや恥ずかしそうに腕の竜化を解いた。

 

 ボウッと周りの壁が淡く光り始める。緑色の顔に白い冠を被ったオシリス像が浮かび上がり、その足下には数段高くなったステージの上に置かれた天蓋付きの寝台。

 あそこにネフェルが眠っているはずだが…。


「ここにいるの?」

「そう。あの寝台がネフェルの寝床で、あの向こうに魂の井戸があるんだよ」

 オシリスの神像を見上げながら訊くメリシャに、フィルは答える。


「まず、わたしがネフェルを起こすから、リネアとメリシャはここで待っててくれる?」

 フィルは顔見知りだが、リネアとメリシャは初対面だ。ネフェルなら気にしない気もするが、深夜に約束もなく訪ねるのだから、まずはフィルが対応するのがいいだろう。


「ネフェル、起きて」

 フィルは寝台の上に横たわるネフェルに、そっと声をかけた。

 胸の上で腕を交差させて眠るネフェルは、まるで彫像のように見えた。息づかいも小さく、注意して見なければ死んでいると勘違いしかねないほどだ。


 ふと、フィルは怪訝な表情になる。九尾の感覚が目の前の人間の生死を見間違えるようなことはない。だが、それでもネフェルの寝姿は生者と死者の狭間にあるように見えた。おそらくは、本当にそういう状態なのだろう。


 ただ眠っているわけではなく、『神の力』とやらがネフェルをそういう状態にしているのだとしたら、魂の井戸から沸く『神の力』を地上にもたらす触媒としてネフェルの身体が利用されているということ。


 確かにネフェル自身もそうは言っていたが、ネフェル自身の意思を介さず、その身体を装置の一部のように使われているのは、少しばかり不愉快だとフィルは思った。


「ネフェル!目を覚ましなさい!」

 フィルが、先ほどより大きな声で呼びかけると、ピクリとネフェルの身体が震えて、ゆっくりと目を開いた。


「……フィル?」

「こんな夜中にやってきてごめんなさい」

 身を起こすネフェルに手を貸しながら、フィルはまず謝った。


「ん、それは構わないけど、ホルエムは一緒じゃないの?」

「うん…」

 ネフェルが寝台の上で上半身を起こすと、フィルは後ろを振り返ってリネアとメリシャに手招きした。


「ネフェル、紹介するわ。わたしの伴侶のリネアと、わたしの娘で今のヒクソス王のメリシャ」

「はじめまして、ネフェル様。リネアと申します」

「ボクはメリシャ。ヒクソスの王だけど、畏まらなくていいから」

 寝台の脇に立ち、リネアとメリシャがネフェルに声をかける。


「ふたりは、フィルと同じ?」

 ネフェルは、軽く首を傾げる。自己紹介の内容よりも、ふたりがフィルと同じく人間ではなく神と呼ばれるものに近い存在だと気付いての質問だった。


「はい、私はフィル様と同じく神獣の力…いにしえの竜の神『ティフォン』の力を受け継いでいます」

「ボクは、未来を見通す百の目を持つアルゴス族。ちょっと気味悪いかもだけど…」

 メリシャの全身に百の目が開き、ネフェルを見つめた。だが、ネフェルの表情に全く変化はない。


 ネフェルはゆっくりと寝台から降りて、ステージの上に膝をついて両手を胸の前に交差させ、リネアとメリシャに頭を下げた。

「オシリス神殿巫女長、ネフェルです。異界の神よ、どうぞお見知りおきを」


「ネフェル様、私たちにも、フィル様と接するように気楽に接してください」

 リネアがネフェルに向かい合って同じように膝をつき、そっとその手を取ってネフェルを立たせた。


「フィル様、まずはお茶でも飲みながらお話されては?」

「そうだね。きちんとネフェルにも事情を説明したいし、お願いしていい?」

「はい」

 リネアが返事した時には、すでにステージの下の床にが絨毯が敷かれ、その真ん中にお茶と焼き菓子が用意されていた。


 リネアがいつも、どこからともなく出しているお茶や菓子。

 一体どうやって用意しているのか、実はフィルにもわからない。以前、リネアに訊いてみたこともあるが、「フィル様の側付として当然の嗜みです」と微笑み混じりに返されてしまった。


 …かつて、パエラも「神獣の力の無駄遣い」だと呆れていたから、神獣の力を利用しているのは確かだと思うが、謎である。


 絨毯に座ったネフェルの向かい側にフィル、フィルから見て左側にリネア、右側にメリシャが座った。

次回予定「説得と脱出 1」

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