不安の未来視 3
メンフィスで政変が発生したことを知ったフィルたち。取るべき行動は如何に。
本音ではホルエムたちを見捨てたくないメリシャだが、フィルがハトラに何も答えなかった理由もわかった。メリシャとて、百年間の女王位を務め上げた身。他国の内乱に不用意に介入するのが大きなリスクであることくらい理解していた。
「とりあえず、今は下手に動かず南部州軍の出方を見るべきかな」
「そうだね。…フィル、ホルエムたちには?」
「…今はまだ黙っていよう。こちらの対応も決まってないんだし」
「わかった」
頷くメリシャに、ようやくフィルは肩の力を抜いた。
「リネア、お茶、くれる?」
「はい、どうぞ」
まるで用意していたかのように、リネアは湯気のたつカップをフィルに差し出した。
「ちょっと面倒なことになりそうだなぁ…ウナス王の処刑に神官たちが立ち会っていたのなら、オシリス神殿もグルなんだろうし…」
お茶を一口飲み、フィルはつぶやいた。
「…ネフェル様でしたか…オシリス神殿の巫女長様は大丈夫なのでしょうか」
何気なく言ったリネアの言葉に、フィルの狐耳がピクリと反応した。
「そうだ、ネフェルを助けないと…!」
オシリス神殿が南部州軍に味方するのは、神殿を牛耳る大神官とやらの意向だろう。大神官がネフェルをどうするつもりなのかはわからないが、ネフェルはメネスの魔術の要であると同時に、ホルエムやハトラの弱点でもある。
もし人質にでもとられたらホルエムたちの足枷となるのはもちろんだが、この世界の『神の力』を司る巫女なのだから、その力を悪用されるとフィルやリネアにも影響を与えるかもしれない。できれば先手を打ってこちらの手の内に保護しておきたい。
「フィル様、お供いたします」
「うん、一緒に来て。…リネアにも『魂の井戸』を見ておいてほしい」
「はい」
「ちょっと待ってよ!フィル、オシリス神殿に忍び込むつもりなの?」
フィルとリネアの間でさっさと話がまとまるのを見て、メリシャは慌てて声を上げた。
「えぇ、行ってくるわ」
ちょっとそこまで、といった感じで言うフィルに、メリシャは拗ねたような視線を向ける。
「じゃ、ボクも連れて行って」
「え…?」
メリシャの反応は、フィルの予想していたものではなかった。てっきり、止められると思ったのだが。
「連れてって」
「…う、うん…それはいいけど…」
ずいと顔を寄せるメリシャに、フィルはやや気圧されるように頷いた。
「メリシャ、どうしてオシリス神殿に行きたいの?」
「フィルは、オシリス神殿の巫女長……えと、ネフェルって言ったっけ、彼女がメネスの魔術の要だって言ってたよね?」
「えぇ…」
「ネフェルを神殿から助け出したら、ホルエムのところに連れて行くんじゃなくて、そのままヒクソスに連れて帰ろうと思うんだけど」
「え?」
突然すぎるメリシャの言葉に、フィルとリネアは顔を見合わせた。
ネフェルを神殿から助け出すことは、フィルが口にしたことだ。そして、そのままヒクソスに連れ帰って匿うつもりだった。フィルの半身たるリネアは、その理由も含めて察してくれているようだが、メリシャまで同じことを言い出すとは…。
メリシャにはネフェルと会った時のことを話してはいる。けれど…メリシャがどうしてネフェルをヒクソスに連れて帰るなどと言い出したのか、理由がわからない。
「…もしかして、それも『見』えたの?」
「違うよ。…ってことは、フィルもネフェルをヒクソスに連れて行くつもりだったの?」
「う、うん…」
「フィルは、ネフェルをどうするつもりなの?」
「どうもしないよ。だけど、…ネフェルは、オシリス神の『神の力』を司っている。この世界の『神の力』は、わたしやリネアにも届くかもしれない。だから、ネフェルにはわたしたちの側にいてもらいたいの。もちろん、危害を加えるつもりはないし、騒動が収まればメネスに帰すつもりだよ」
フィルは正直に答えた。自己中心的な理由だとは思っている。けれど、この世界の『神』という存在をフィルは強く警戒していた。テトのような存在ばかりならいいが、そうである保証はないのだ。
もちろん、ネフェルにはきちんと説明して説得するつもりだが、どうしてもとなれば無理やり連れて行くしかないと思っている。
「うん、フィルの心配していることはよくわかるよ」
「けど…メリシャの目的は、たぶん、わたしたちとは違うんじゃないの?」
やや眉を寄せて言うフィルに、メリシャは頷く。そして、メリシャが口にした彼女の考えに、フィルとリネアは大いに驚くことになった。
次回予定「ネフェル再訪 1」




