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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第3章 メネス戦役
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不安の未来視 1

メンフィスに入っているという南部州軍。ヒクソスはどう行動すべきなのか。

 そして、自陣に戻るホルエムたちにウゼルが付き添い、天幕にはメリシャたちとシェシ、フルリが残った。


「フィル、どうしてハトラに何も答えなかったの?」

「まだわからないことだらけで、何とも答えようがなかっただけだよ」

 メリシャに問われたフィルは、少し間をおいて答えた。


「ハトラが言った『もしもの時』ってどういうことか…かなり重大なことだと考えたからなんでしょう?」

 じっとメリシャに見つめられ、フィルは苦笑交じりのため息を漏らす。フィルは嘘は言っていない、けれど全てを話してもいない。メリシャはそう感じた。


「わかった。…ただし、わたしも確証があるわけじゃない。あくまで推測だと思って聞いてくれる?」

 フィルは、その場の全員を見回した。

「メンフィスにいる南部州軍は、ホルエムたちの味方じゃないと思う。つまり、メネス内部の政変(クーデター)。…南部州軍のメンフィスへの入府は、メネス軍主力の留守を知っていて、その隙を突いたように見えない?」


「それは、さすがに考え過ぎじゃない?…やっぱり主力軍のいない間、メンフィスを守らせるために呼び寄せたんじゃないの…?」

「そうだね。…だったら良いとわたしも思うよ」

 短く答えたフィルの言葉に、メリシャも不安を覚える。

 

「フィルはどうしてそう思うの?」

「さっきも言ったとおり、推測でしかないけど…今回の侵攻には最初から、幾つか違和感があったんだよ」


 フィルが挙げた違和感は3つ。


 まず1つ目は、侵攻をこの時期に起こしたこと。

 大河イテルの洪水が起こる時期は毎年ほぼ決まっていて、その間は農閑期になるが、それが終われば次の収穫に向けて農民たちを農地に戻さなくてはならない。

 1年のうちでおおむね3ヶ月ほど起こる大河イテルの洪水は、2ヶ月ほどかけてゆっくりと水位が上昇し、ピークを過ぎると1ヶ月ほどで元の水位まで下がってしまう。洪水の前から侵攻の準備を進め、大河の水位が上がり始めると同時に出陣するくらいのスケジュールならともかく、今回の侵攻では、洪水がほぼピークを迎える時期になってようやくの出陣となった。それだけ短期決戦に自信をもっていたのかもしれないが…それにしても時間の余裕がなさすきる。


 2つ目に、俗世の行いには口を出さないオシリス神殿が、今回の侵攻に際してわざわざ賛意を表明したこと。

 …これについては、フィルも意図を計りかねているが、侵攻が確実に実施されるよう後押ししたのだとすれば、神殿にも何か思惑があったということだ。 


 3つ目に、前線に向かうホルエムにメンフィスに残るほぼ全軍を付けたこと。

 前線にはメネス軍の主力が健在であり、数で劣るヒクソス軍は積極的な攻勢には出ていない。その程度の情報はメンフィスにも伝わっていたはずだ。農民兵を帰還させるとメネス軍の兵力はほぼ半減するが、それでもヒクソス軍を上回る。

 王太子であるホルエムに護衛無しというわけにはいかないだろうが、メンフィスを守っていた全兵力を同行させる必要はないはずだ。都を無防備にするという危険を冒してまで、全軍を動かしたのはなぜだ?


 ヒクソス侵攻は名目で、メネス軍主力をメンフィスから遠ざけることが目的だったのだとすれば…そして、南部州軍とオシリス神殿が何らかの繋がりを持っているのだとすれば…、

 もちろん他の理由だって考えられるが、実際にこれまで王国南部に張り付けられていた南部州軍が、大挙してメンフィスに入府しているという事実を考えると、最悪の事態も想定すべきだとフィルは考える。


 とにかく、返答の期限は伝えてある。おそらく、期限までに何らかの動きがあるはずだが…


「やっぱり、メネス王国で政変が起こってると思うの?」

「じゃなかったら、ホルエムたちまで足止めしないでしょう?…今、ホルエムたちに戻って来られては困るから足止めした、違う?」


「それも…そうかも…」

 メリシャもなんだかフィルの言う事が正しい気がしてきた。


「面倒事に関わりたくなければ、今すぐ交渉を諦めてヒクソス領に引き返すのが一番だけど…」

「フィル…ちょっと、『見』てもいいかな?」


「そうだね…仕方ないか…」

 未来視の能力を使うと言うメリシャに、フィルはも渋々といった様子で頷いた。ここでどう対応するかがヒクソスの命運に大きく影響する可能性もある。フィルとしても、何か手がかりを得たいのが正直なところだ。


「メリシャ、とりあえずメンフィスにいる南部州軍が敵か味方か、それとすぐに戦いになるかどうかだけわかればいいわ。そこから先は、今はいいよ」

 フィルはメリシャに言った。


 メリシャの未来視、今後起こり得る百の未来を予見する能力は、実はひどく使い勝手が悪い。

 それはそうだろう。人の未来など状況次第でいくらでも変化するものだ。そしてそれは、先の未来になるほど大きくブレる。

 未来を正確に予見する能力だからこそ、不確定なものは不確定なりの結果しか見えないのである。


 例えば、明日の天気のように人の行動に影響されず、比較的近い未来なら、メリシャの未来視で確実に当てられる。


 だが、今のように情勢自体が不安定な状況で、数ヶ月先の未来を見たとしても、その結果は千差万別。

 見えた未来の中のどれかに至るだろう、という程度のことしかわからない。しかも、自分達の行動だけが未来に影響するわけではないため、望む未来へのルートをなぞろうとしても成功するとは限らない。


 だからフィルは、当面の対応を決定できる程度の未来視でいいと考えた。

 『見』る範囲が近くて狭いほど、メリシャの未来視は精度が上がるのだ。

次回予定「不安の未来視 2」

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