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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第3章 メネス戦役
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呉越同舟 1

停戦し、共にメンフィスに向かうことになったヒクソス軍とメネス軍。


☆15万PVに達しました。ご愛読ありがとうございます☆

 停戦合意から10日。メネス軍は砦を退去して国境まで下がり、ヒクソス軍の到着を待っていた。


 王が軍を伴って隣国へ行くのだ。フィルとホルエムが合意したからと言って、すぐに動けるわけではない。メネス側にも、メリシャとともにヒクソス軍がメンフィスに入ることを本国に伝え、準備を整える必要があった。

 そうこうしているうちに10日がたち、先ほどヒクソス側の先触れが、メリシャとヒクソス軍の到着を知らせに来たところである。


 ホルエムたちと一緒にメンフィスに向かう兵はすでに整列し、近づいてくるヒクソス軍に目を向けていた。


 まず見えてきたのは、身を隠せる程の大盾を持つ重装歩兵だ。臨戦態勢ではないため、大盾は背負い、長槍も手にしていないが、5列に整列して整然と進んでくる姿は、メネス兵たちがよく知るヒクソスの戦士たちとは全く違うものだった。

 メリシャとフィルが相談して決めた部隊の編成は、重装歩兵500、軽装歩兵200、弓兵300である。物資を運ぶ輜重隊や斥候もいるが、それは軍の数には含めていない。

 残りの直轄軍団は、砦に一個大隊100人の兵力を留守居とし、それ以外はアヴァリスに帰還させた。


 メネス・ヒクソス両軍が国境で合流すると、ヒクソス軍の中からメリシャが現れ、ホルエムの前にやってきた。


「…メリシャ王、この度はこちらの招きを受け入れて下さり、ありがとうございます」

「ホルエム殿の要請となれば無下にはできません。それに、ウナス王とも直接お話した方が良いでしょう」

 騎乗しているホルエムを、やや高い位置から見下ろしながらメリシャは答えた。


「ホルエム殿、どうかなさいましたか?」

「もしや、そのままメンフィスへ入られるのでは…」

「はい。そのつもりですが、何か問題でも?」

 さらりと金色の毛並みを撫でながら笑うメリシャに、ホルエムの頬が引き攣る。側にいるアイヘブに至っては、完全に固まっていて声も出ない。


 メリシャを背に乗せているのは、九尾の姿のフィルだった。メリシャの後ろにはリネア、シェシ、フルリも乗っている。体高こそ戦象より低いが、それに匹敵する大きさの金色の大狐。その姿に。メネスの将兵は完全に度肝を抜かれていた。


「フィル様、そのお姿を見せても良いのですか?」

 ハトラは、こっそりと九尾の側に近づいて囁く。

「だって、メリシャやリネアをメンフィスまで歩かせるわけにはいかないでしょう。ヒクソスには満足な馬車もないし、わたしの背が一番乗り心地がいいのよ」


「だからと言って…」

「ホルエムは前に乗せたことあるから、ハトラも乗ってみる?」

「…この大勢の前で、そんなことできるわけないじゃないですか…!」

 ため息をつくハトラに、九尾はクックッと喉を鳴らした。


 そして、メネス軍とヒクソス軍が肩を並べてメンフィスを目指すという、前代未聞の行軍が始まった。

 重装歩兵と弓兵を主力とするヒクソスに対し、メネス軍は軽装歩兵が中心で騎兵と戦車がそれに続く。その編成からも、ヒクソスは守りの軍、メネスは攻めの軍という特色が良く現れている。


「メリシャ王、ヒクソスの軍は以前とはずいぶん変わったようですが…」

 珍しく、アイヘブの方からメリシャに声をかけてきた。


「えぇ。メネス軍に比べれば兵力は少ないですが、国を守ることに関しては、そう簡単には負けませんよ」

 笑顔で答えるメリシャに、ヒクソス軍を突破できなかったアイヘブは微妙な表情になる。だが、メネス軍には少ない重装兵という兵種には興味を抱いた。以前にメネス王城でフィルが見せた戦い方も、防御を固めた重装兵の集団運用を軸にしていた。


 メネス軍の主力は、『ケペシュ』と呼ばれる弓なりに折れ曲がった鎌型の剣に、片手に着ける小さな盾を装備した軽歩兵と、弓兵、騎兵、戦車である。大盾を持ち防御を固めた重装兵は、本陣周りの守りのために少数置くこともあるが、戦いの主力ではない。

 これまでのヒクソスも、軽装の戦士がその大半で、少数の弓兵がそれを援護する程度だった。


 この軍編成の大きな転換は、ヒクソス軍の作戦思想自体が大きく変わったことを示している。思えば、先の戦の序盤で、ヒクソスの戦士たちがいつも通り突撃してきたのは、作戦思想の変化を悟らせないための陽動だったのか。


 だが、あれでおそらく200以上の戦死者が出たはず…陽動にしては、被害が大きすぎるような気もするが…アイヘブは、ヒクソスの軍勢を横目で見ながら考えていた。


次回予定「呉越同舟 2」

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