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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第3章 メネス戦役
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戦士たちの敗北 3

予想通り、無謀な突撃をした戦士たちに、メリシャは怒る。


「撃ち方、止め!」

 メネス軍に部族の戦士が突入して一部が乱戦となったところで、メリシャが号令し、弓兵たちは弓を降ろす。


 今の攻撃は、戦士たちの援護を兼ねた試射のようなもの。実際の射程や威力、狙いのクセを弓兵たちに確認させたのだ。彼らの本当の出番は、まだこの後である。


「多少は混乱したみたいだけど、さすがメネスの正規兵ね。もう立て直し始めてる」

 戦場を眺めていたメリシャが、シェシとフルリに説明するように言った。


 ヒクソス側の数が少ないと判断したメネス軍は、両翼の部隊を前に出し始めていた。乱戦気味になっている中央の陣でヒクソスを受け止めつつ、両側面から包囲する格好だ。


 メンフィス訪問の際の模擬戦で、フィルもやってみせたオーソドックスな戦術である。

 自軍と同等の兵力に対して仕掛ける場合は、包囲を食い破られる可能性があるため、兵力の配置や仕掛けるタイミングをよく考えなくてはならないが、相手が自軍よりも大幅に少ない場合は極めて容易だ。


 メリシャは城壁の上から黙ってそれを眺めていたが、近くにいた兵を呼んで砦の門を開かせ、戦士たちが退却してきたら受け入れるよう命じた。


「メリシャ様、どうして門を開いたんでやすか?」

「…さすがに、退却してきた戦士たちは助けないとね。わざと捨て駒にしたなんて言われちゃ心外だし」

 メリシャは、戦場の様子を見つめたまま答えた。…実際、捨て駒ではあるのだが、勝手に動いたのは彼ら自身であり、メリシャが命令したわけではない。

 

 両側面からもメネス軍が迫るに至りさすがに不利を悟ったのか、砦の方に退却してくる戦士たちの姿が見えた。

 突撃にもまとまりがなかったが、退却もバラバラだ。本当に個人個人で手当たり次第に戦っているだけ。作戦も何もない。フィルが直轄軍団を根本から叩き直した理由も良くわかる。


 弓兵たちが、退却する戦士たち追撃するメネス兵を足止めし、どうにか百人に少し足りないくらいの戦士が砦に逃げ込むと、砦の門が閉じられた。


 メリシャは、シェシとフルリを連れて城壁を降り、肩で息をしながら座り込んでいる戦士たちに近づいた。


「メリシャ王!砦の兵を援軍に貸してほしい!もう一度突撃すれば、本陣に迫れる!」

 地面に座り込んだままメリシャを見上げ、声を上げた男がいた。確か、戦士を引き連れてきた部族長のひとりだ。


「ボクは出陣の命令は出していない。それなのに、どうして勝手にメネス軍と戦ったの?…相手の兵力はこちらよりも明らかに多いのに、どうしてあんな無謀なことをするの?!」


「目の前にメネスの連中がいるのだ。臆するわけにはいかん。当然、戦いを挑むに決まっている。それがヒクソスの戦士だ」

 …なるほど、そういうことか… メリシャはようやく理解した。


 彼らは、有利不利など関係なく、ただ戦うことに意義を見出している。国を守るという目的とメネス軍と戦うという手段がすり替わり、ただ個人の技量に任せて戦い、手柄を競うことが目的となっている。


「兵は貸さない。戦いに参加する条件は、ボクの命令に従うことだったはず。でもあなたたちは命令に従わなかった。だから、これ以上戦いに参加することは許さない」

 冷たく言うメリシャに、部族長は驚きの表情を見せる。


「なんと、メネス軍を前にしながら戦わないと仰せか?!」

 部族長に呼応し、周りの戦士たちも口々に言い始めた。


「たくさんの仲間たちの命を無駄にするのか」

「我らが一撃加えた今こそが勝機なのだ!」

「ヒクソス王たる者がなんたる弱腰か!」


 最初は何を言われても無視していたメリシャだったが、あまりに身勝手な主張にだんだんと腹が立ってきた。無意識に拳を握り締め、奥歯を噛み締める。


「前に、王の側近がメネス軍を追い返したというのも、これでは眉唾物ではないか。ウゼル様との決闘に勝ったとは聞いているが、メネスの軍勢には恐れをなしたと見える。今ここにその者がいないのは、そういうことであろう」


「巨大な神獣を従えているという話も、王に追従するセトの神官どもがそう言っているだけではないのか?本当に神獣がいるのなら、メネスの軍勢如き蹴散らしてもらいたいものだ」


「…黙れ!」

 フィルたちのことまで揶揄する言葉に、ついにメリシャもキレた。


 思わず切断糸を繰り出そうしたところで、ふわっと心が温かい何かに包まれるのを感じた。優しく抱き締められ、子供の頃よくしてもらったように、頭を撫でられた気がした。

(フィルさまの悪口には腹が立つけど、こんな奴らにメリシャが手を汚すことはないよ。…ね?)


 メリシャは、気持ちを抑えるように大きく息を吐く。

 

「…多くの戦士が死んだのは、誰のせいだ?!ボクの命令を聞かず、無謀な突撃をしたお前たちのせいじゃないか!」

 戦士たちを睨み付け、メリシャは強い口調で言った。


「ボクはこれからメネス軍の侵攻を防いでみせる。突撃して手当たり次第に敵兵を倒すことだけが戦いじゃない!」


 パチパチパチ…

 後ろから拍手の音がした。振り返れば、いつの間にやって来たのかフィルが立っていた。

次回予定「砦の攻防 1」

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