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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第3章 メネス戦役
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ふたりきりの殲滅戦 2

メネス軍別動隊の前に、九尾が姿を現す。

「交代だぞ」

 振り返ると、同じ隊の兵が立っていた。


「おう、異常なしだ」

「異常なんてあるわけがないだろう?」

 緊張する様子もなく答えた彼に、兵は見張りの場所を明け渡す。


「まぁな…アヴァリスまではまだ2日もかかるんだろう?楽なのはいいが、退屈でたまらんよ」

「そう言うな。アヴァリスにはヒクソスの戦士どももいないんだろ?こんなに楽な任務で、帰れば英雄だぞ。しかも、アヴァリスでは稼ぎ放題だ」

 交代した兵は、口角を上げる。


「そうなのか?」

「知らないのか?ここしばらく、連中はメネスにに色々な物を売りつけて、金を手に入れているんだ。たっぷり貯めこんでるだろうよ…ま、金が見つからなくても、子供や若い娘を攫って売ればいいさ」


「俺は連れて帰るより、その場で慰めてもらった方が面倒がなくていいな」

「奴らは獣だぞ。俺はメンフィスに帰ってから遊ぶ方がいい」


 身勝手な言葉を吐く彼らは、ケレス宰相の派閥に属する者たちに率いられた職業兵たちだった。


 メネス軍には、兵士を職業とする者と、一般の国民から徴兵された者がいる。本隊8千のうちおよそ半数は徴兵された者が占めているが、別動隊2千はその全てが職業兵で構成されていた。 


 職業兵は、衣食住が保証される代わりに給金は余り高くない。そのため、侵略の際には戦闘終結から一定期間、略奪行為が認められ、捕らえた住民を奴隷として売り払ったり、奪った金品を私財することが慣例であった。命をかけて戦ったことへの特別報酬というわけだ。


 だが、その下卑た会話をじっと聞いている者がいるなど、想像すらしていなかった。 

  

(お前たちには、ここで跡形もなく消えてもらう。一人も逃がしはしない)

 元より助けるつもりはない。むしろ下手な同情を抱く必要もない相手だとわかって気が楽だ。

 

 フィルは、神殿の方向に注意を向ける。ティフォンの力が大きく膨れあがっているのを感じた。

 リネアの準備も整ったと判断したフィルは、大きく跳び上がり、船団を真上から見下ろす位置で足を止めた。

 船団の見張りは、闇の中で音も無く宙を駆ける九尾の姿に気づいていない。


 扇状に9つの尾を広げた九尾の姿が薄ぼんやりと金色に輝き、その周囲に、ポッポッと幾つもの青白い狐火が灯った。


 突然頭上に現れた大妖狐の姿に、メネス軍の見張り兵はしばし呆然としていたが、すぐに周りの兵を起こし始める。素早く弓に矢をつがえ、射かけてくる者もいたが、九尾には届かない。


 九尾が軽く顎を振ると、周りに浮かんでいた狐火が、ゆらゆらと空中を揺蕩いながら、夜を照らす松明のように船団の姿を浮かび上がらせた。

 戦場の兵たちが慌て始める。当然ながら木造の船は火に弱い。弓兵が目標を九尾から狐火に変えるが、狐火に触れた途端に矢が燃え尽きるだけで効果はなかった。

 

 だが、狐火はいつまでも落ちてくる気配はなく、ただ船団の上を照らすだけ。

 そして、暫らくその様子を見つめていた九尾も、そのまま何もせず闇の中へと消えてしまった。一瞬、その紅い瞳が憐れむように船団を一瞥したことに気付いた者はいなかった。

 

 船上の兵たちは、何が起こったのか全く理解できないまま、困惑していた。


 そう、今回のフィルの役割はここまでだ。

 フィルは船団の位置を確かめ、照明弾のごとく狐火を浮かせて標的を照らし出した。…ここからはリネアの役目である。

 別動隊には、戦いの痕跡も、一人の生き残りもなく、文字通り消失してもらわなくてはならない。


 船の上のメネス兵たちは、慌てふためきながら姿を消した九尾の姿を探している。

 だが、彼らに死を与える存在は、船団前方の闇の中で、静かにその顎を開いていた。

次回予定「ふたりきりの殲滅戦 3」

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