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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第3章 メネス戦役
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開戦の前触れ 1

メネス軍の偵察に出かけたリネアは…

 ポツリポツリと浮かぶ白い雲の間を、ゆっくりとリネアは飛んでいた。


 眼下に見えるのは、濃淡の緑と黄土色のパッチワーク。その中に黒っぽい1本の線が走っている。この大地の生命線、大河イテルである。


 メネス軍の状況を偵察するため、リネアは大河イテルの流れに沿って上流へと向かっていた。竜人の姿で飛んでいるのだが、雲と同じ高さを飛ぶ影は、地上からは大きな鳥のように見えるだけだろう。


 さて、とリネアは眼下の大河に目を凝らした。


 増水した大河イテルは、下流域にあたるヒクソス領では川幅が数キロにも達する。毎年決まった時期に発生する洪水は、遥か数千キロ上流の山岳地帯に降った雨季の大雨が、ゆっくりと流れ下り、大河の水位を上げることによって起こる。そのため、川の水位は上がっても濁流が荒れ狂うことはなく、川幅が広がる分、大規模な船団を押し立てて進軍するには都合がいい。


「いましたね…」

 小さく独り言をつぶやいたリネアの視線の先には、2列に並んで進む10隻の船がいた。


 船の大きさは全長約20m、幅4mほどで、サエイレム港でよく見た外洋航海用の大型商船よりは小さいが、ヒクソスに交易に来るメネスの商船からすると倍近い大きさだ。船の中央よりやや船首寄りにマストが1本立っているが、帆は張られていない。

 甲板には多くの兵士がぎっしりと乗り込んでいて、メネス軍の別動隊であることは間違いなかった。


 兵を満載した船はオールを出して漕ぐ様子もなく、大河の流れに乗って下流へ向かっている。大河の流れは非常にゆったりしているため、ペルバストに到着するまでにはまだ1日以上はかかりそうだ。


 別動隊の位置と様子を見届けたリネアは、身体の向きを変えて東へと向かった。

 今度はメネス軍本隊の状況を確認するためだ。国境から街道に沿ってアルシャキア平原へ向かえば、おそらく見つけられるだろう。リネアは、地上を眺めながら飛行速度を上げた。


(…あれがメネス軍の本隊…やはり多い…) 

 リネアが探し回る必要もなく、メネス本隊の姿はあっさり見つかった。8千もの大集団が空から目立たないはずがないし、おおむね想定通りの場所にいたからだ。


 メネス軍は、すでにアルシャキア平原を進んでいた。明日には、ヒクソス軍の砦を見つけて、その手前に陣を張るだろう。

 メネス軍本隊の役目は、別動隊のためにヒクソス軍を戦場に釘付けにすること。挑発がてら散発的な攻撃は仕掛けているだろうが、本気では動くまい。


(…フィル様が予想されたとおりですね)

 満足そうに微笑み、上空をゆっくりと飛びながら、メネス軍の兵力、騎兵や戦車の数などを確認していく。隊列の中に長い鼻を持つ大型の動物が10頭ほどいた。リネアは初めて見たのだが、あれが『象』という動物だろう。

 九尾への対策として連れて来られたようだが、大きいとは言えただの動物。神獣の相手になるはずもない。…可哀想に…リネアは少しだけ象に同情した。


 メネス軍の上空を通過してまもなく、リネアの視界にヒクソス軍が構築している砦の姿が見えてきた。その中にフィルの姿を見つけたリネアは、一直線に砦へと向かって高度を下げていった。

 

 砦の中に降り立ったリネアは、待っていたフィルにメネス軍の様子を伝えた。

 メネス軍の本隊と別動隊の行動は、ほぼ想定どおり。ヒクソス軍の準備も間もなく終わる。

 いよいよ開戦の時は近い。


「リネア、別動隊が来るのは明日の夜くらい、かな?」

「おそらく、そのくらいになるでしょう」

「それなら、一度アヴァリスに戻ろうか。メリシャも準備して待ってると思うから」

 

 頷き合ったフィルとリネアは、フルリを連れてアヴァリスへと向かった。リネアの偵察でメネス軍の最新の動向が掴めたので、作戦の最終確認してくおくとしよう。


 リネアとフルリを背に乗せた九尾が王城の前庭へ降り立つと、今まさに後続の兵や物資が前線の砦へと送り出されているところだった。

 ちょうどメリシャもそこにいて、フィルたちに駆け寄ってきた。

次回予定「開戦の前触れ 2」


※年末年始も通常どおり更新します。12月30日(金)が今年最後の更新になります。

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