深夜の密談 4
急いでアヴァリスに帰ろうと走るフィル。しかし、黙って出かけたことを気付かれていたようで…
急いでアヴァリスに戻るべく、フィルは九尾の姿で夜空を駆けた。
今夜のハトラとの密談も、その内容も、完全にフィルの独断だ。メリシャには内緒にしておきたくて、皆が寝静まったのを見計らい、誰にも見つからないように王城を抜け出してきた…つもりだった。
ヒクソスとメネスの国境を越えたところで、九尾の行く先の空に人影がひとつ、浮かんでいた。
ゆっくりとスピードを緩めた九尾は、その人影のすぐそばで完全に足を止める。
「フィル様、お帰りなさい」
竜の翼をはばたかせ、夜空の中にポツリと佇んで待っていたのは、竜人姿のリネアだった。
「ただいま。リネア、あのね…」
リネアにじっと見つめられ、フィルは言い淀みながら目を逸らした。
「行先は、ハトラ様のところですね?…眠っていたはずのフィル様の姿が見えなくて…あの時のことを思い出してしまいました」
…少し拗ねたように言うリネアに、フィルは居心地悪そうに九尾の巨体を縮める。リネアが言うのは、後にも先にも、たった一度きりの喧嘩をした、あの夜のことだとすぐにわかった。
「…その…黙って出かけて、ごめんなさい!」
素直に謝ったフィルに、リネアはふわりと微笑んだ。
「仕方ありませんね…」
「…リネア、わたしの背に乗ってよ。最近は乗せてもらってばかりだったから、リネアを乗せて走りたい」
「それでは、失礼します」
リネアは慣れた仕草でサッと九尾の背にまたがり、狐人の姿に戻った。
「いくよ。しっかり掴まってて」
「はい!」
フィルは再び風を蹴って走り出す。
「…リネア、今度の戦争では、たくさんのメネス兵を殺さなくちゃいけない」
「はい。……残念ですが、メネスから仕掛けて来たことです。仕方のないことだと思います」
「うん。わたしもそう思ってる…だけど、メリシャにはあまり知られたくないなぁ…と思って……」
フィルは、つぶやくように言った。
「フィル様……前にも言いましたよ。フィル様が手を汚すのなら、私も一緒に汚れます、と。…きっとメリシャもそう思っているはずです。あの子だって、百年もの間、立派に女王を務めたのですよ」
リネアは、愛おし気に金色の毛並みを撫でた。
「わたしの我が儘かもしれないけど、…メリシャにはもちろんだけど、できればリネアにも手を汚してほしくないよ……」
「ありがとうございます。でも、私がそうしたいんです。私はフィル様の伴侶であり半身です。フィル様が背負うものの半分は、私にも背負わせてください。これは、私の我が儘です」
「そっか…」
しばらくの間、無言になる。星が敷き詰められた静かな夜空の中、互いの息遣いだけが聞こえる。
「……フィル様、こうして二人きりになるのは久しぶりですね」
「そうだね、メリシャにシェシ、テトやフルリもいるし…毎日、にぎやかで退屈しないけど……」
「今夜は、私がフィル様を独り占めしたいです。…ダメでしょうか?」
リネアは、そっと金色の毛皮の上に身を倒し、恥ずかしそうに言った。
「ううん、いいに決まってる。わたしも、リネアを独り占めしたいと思ってた…」
フィルも、アヴァリスに向かって走っていた足を緩める。
「この先の森の中に、綺麗な泉があります。行ってみませんか…?」
「うん。行こう」
森に囲まれた静かな泉の畔へと降り立った。泉の周りには、ぼんやりとした光を放つ虫がたくさんいて、幻想的な風景を作り出していた。
もちろん周りには誰もいない。リネアを降ろし、フィルは人間の姿に戻る。
リネアがフィルの頬に手を添えると、フィルはそっと目を閉じた。
リネアはゆっくりと顔を近づけ、唇を重ねる。くちゅりと湿った音をさせながら舌を絡め合い、微かな吐息とともに唇が離れると、溢れた露がふたりの間に細い糸を引いた。
「…ん…リネア…」
「…あぁ…フィル様…」
リネアは、とろんと潤んだ瞳でフィルを見つめ、するりと服を地面に落とした。フィルも頬を赤らめながら素肌を晒していく。
透明な水を湛える泉に、向かい合って肌を重ねる仄白い裸身が映りこんでいた…。
ふたりがアヴァリスの王城に帰ってきたのは、夜が明けてからだった。
次回予定「作戦準備 1」
…夜の営みでは、リネアの方が『攻め』です(謎)




