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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第3章 メネス戦役
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ハトラの使い 4

ハトラからの手紙の内容は…

「アミン、少し訊いていい?」

 メリシャが手紙を読んでいる間に、フィルはアミンに声をかけた。


「はい、何でございましょう?」

「メネスの市井の暮らしはどう?飢えたりはしていない?」

「はい。まだ飢えるような状態ではありませんが、市井に流通する商品の値段が上がり、生活が苦しくなっている者は多くおります」

 他国の民を心配するようなフィルの質問に、アミナはやや驚きつつも、正直に答えた。


 物の値段が上がったのは、ヒクソスから輸入される産品の値が上がったせいだ。フィルを相手に面と向かっては言いにくいが、訊かれたことには全て正直に答えるよう、ハトラから強く命じられていた。


「王国は、何か対策をしているの?…税を下げるとか、必要以上の値上げを規制するとか…」

「それが、国の財政も悪くなっており、有効な対策が取れていません。ウナス王が進めていたオシリス神殿の改築も一時中断され、それで失業する者も出ています…」

「なるほど…ね」

 フィルは、指先を顎に当てて考える。


「フィル…これ…」

 書簡を読み終わったメリシャが深刻な表情で、書簡をフィルに差し出した。


 受け取って目を通す。その内容は、メネス王国軍がヒクソスへの再侵攻を準備しているというものだった。そして、次のような情報が綴られていた。

 動員されるメネス軍の兵力は約1万と予想されること。

 侵攻開始は洪水で大河イテルの水位が最も上がる、今からおよそ1月後が予定されていること。

 アイヘブ将軍が総指揮官となり、ホルエムやハトラは参陣しないこと。

 侵攻軍のうち約8千が国境から陸路で侵攻してヒクソス軍を引きつけ、残り2千の別動隊が大河イテルを船で下って直接アヴァリスへの急襲を狙っていること。


「いくらなんでも、ここまで知らせていいの…?もしかして、罠なんじゃ…?」

 別動隊のことまで知らせてしまったら、メネスの不利は確実ではないか。


「いいえ!ハトラ様は、決してメリシャ王を騙したりは致しません。どうか信じて頂きたい!」

「だ、大丈夫だよ。本気じゃないから、可能性のひとつとして言ってみただけだから、ね?」

 声を上げるアミンを、メリシャは慌てて宥める。


「アミン、この手紙のことをホルエムは知っているの?」 

 読み終わった手紙をサリティスに渡しつつ、フィルはアミンに尋ねた。


「はい。…ただ、ホルエム様は侵攻に強く反対したせいでファラオの不興を買い、謹慎を言い渡されております」

 返事をするアミンに、はぁぁぁっとフィルは大きなため息をついた。


「もー、どれだけこっちに押し付ける気よ…ホルエムも少しは考えてうまく立ち回りなさいっての……ったく、今度会ったら説教だわ」

「申し訳ございません」

「あぁ…いや、アミンのせいじゃないから気にしないで。それに、ハトラの考えてることもわかるから…いや、わかるだけに、それにのせられるのが癪というか…」

 パタパタと手を振りつつ、フィルは眉を寄せる。


「フィル…?」

「メリシャ、ハトラがどうしてこんなに詳しく知らせてきたのか、わかる?」

「もしもメネスが勝ったら、ケレスたちの勢いが強まる。だから、ヒクソスに勝ってほしいってことでしょう…?」


「それだけなら、さっきメリシャが言ったとおり、ここまで詳しく知らせる必要はないわ。…だけど、ただ勝つだけじゃない。ハトラは、わたしたちに完勝してほしいの。双方に極力被害を出さず、メネス軍に勝ってみせろってこと」

「こちらの被害は少なくしたいけど、相手の被害も、となると面倒だね…どうしてそんなことを?」

 相手の被害も少なく、となるとフィルやリネアの力に頼るのは難しくなる。


「終わった後、敗戦の責任を口実に、アイヘブやケレスを失脚させる気なんでしょうね。だから、あんまり被害が大きいと都合が悪いのよ」


「完膚なきまでに打ち破った方が、責任を取らせやすいのでは?」

 手紙から顔を上げたサリティスが言う。

次回予定「ハトラの使い 5」

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