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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第2章 猫神の都
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動く死者 3

死んでなお動き回る大神官の死体にフィルとメリシャは…

「なんで…」

 薄々こうなるんじゃないかとは思っていたが、目の前で本当に起こると思わずつぶやいてしまう。

 だが、気を取り直したメリシャは、再び腕を振るう。今度は首だけではない、両腕両足も一度に切断する。

 ズシャリと湿った音を立てて、ジェドエの身体は倒れるというより、その場に落下した。 


「死者が動くのは、どうもメネスだけじゃないみたいね…」

 言いながらもフィルは警戒を解かない。

 ネフェルのところに行く途中で遭遇したミイラ兵たちは、完全に干からびた身体で動いていた。目の前でバラバラになっているジェドエは…四肢を落とせば、動けなくなるのが道理だが、果たして…


 …ズリッ…

 地面に落ちた手足が、それぞれ痙攣するように蠢きながら、ゆっくりと胴体に向かって這いずり始めた。そのあまりに気持ちの悪い光景に、後ろで見ていたフルリが堪えきれずに口を押さえる。

 さすがに四肢を切り落とされた状態からの復元には時間がかかるようで、元の位置に戻ろうとする手足の動きはジリジリとしたものだったが、このまま放置すれば、いずれ確実に復活する。


 首を落としても、四肢を落としても、動き続ける死体。死体である以上、メリシャの毒も効かないだろう。どうすれば殺せるのかとメリシャは頭を悩ませる。


「メリシャ、わたしがやるわ」

 フィルが前に出る。切り刻んでダメなら、焼き尽くして消滅させるしかあるまい。

 切り刻まれても動きを止めない死体なんて、野放しにはできない。おそらくは何らかの神の力がこの現象を引き起こしているのだろう。テトの力でないとすれば、オシリス神殿のミイラ兵といい、冥府を司るというオシリス神の力なのか…


 ジェドエの死体を調べることで、何か手がかりがあればと思ったのだが…残念ながら調べるのは諦めるとしよう。今は神殿の安全を確保する方が優先だ。


「フィル、気をつけて」

「わかってる」

 手のひらに狐火を浮かべたフィルは頷く。メリシャは気分を悪くしたフルリの背をさすってやりながら、後ろに下がった。


 痙攣するように這いずる四肢や、虚ろな目をした首がごろりと転がりながら胴体の方に近づいていく姿は、気の弱い者が見れば卒倒するようなおぞましい光景だ。


 さすがのフィルも、そんなものに近づきたくはない。

 フィルは虚空に出現させた狐火を放った。狐火が着弾すると、ボッと音がして、青白い炎が上がる。


 アァァァ…!

 高熱に炙られ、悲鳴とも唸りともつかない声を上げながら、ジェドエの胴体は炎の中でのビクビクと震え、それぞれの四肢はのたうつように跳ねる。

 だが、燃え盛る狐火の勢いは決して衰えない。じっと見つめるフィルの視線の先で、だんだんと動きを緩慢にしていったジェドエの体は、やがてピクリとも動かなくなった。


 ふぅっとフィルが息をついた瞬間、燃え尽きて半ば崩れたジェドエの胴体から、白いもやのようなものが現れた。肉が燃えた煙ではない。首や手足が切り落とされた傷口から滲むように漏れ出し、やがて空中の一点に集まり始める。


 フィルは再び警戒を強め、その白いもやを睨んだ。だが、もやの正体を計りかね、一瞬だが躊躇ったのがまずかった。


 白いもやが突然、パンッと弾け、中から緑色の羽根を持つ人面の小鳥が姿を現し、大きく翼を広げた。反射的にフィルが狐火の矢を放つが、小鳥は素早く身を翻して矢を避けると、そのまま空へと飛んでいき、そして、すうっと溶けるように跡形もなく姿を消した。


「ちっ…」

 大きく舌打ちして、フィルが悔しそうに顔をしかめる。


「メリシャ、ごめん。逃がした…!」

「フィル、あいつは?」

「わからない。けど、ロクなものじゃないのは確かだと思うよ…」

 フィルは、小鳥が消えた空を睨み、気持ちを落ち着けるように大きなため息をついた。

次回予定「町の再建 1」

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