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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第2章 猫神の都
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妲己式新兵教育 1

捕らえた神官たちを、妲己はどうする?

 神殿の幾つかの部屋に閉じ込められていた神官たち総勢約100人は、メリシャの指示で神殿奥のムルの中庭に集められていた。後ろには、メイスを手にしたフルリたち10人ほどの巫女が監視している。


 手足の拘束は解かれているが、悔しそうに顔をしかめている者はいても、暴れる者はいない。メリシャはもちろん、見下していたフルリたち巫女たちにさえ手も足も出なかったことは、彼らにとって大きな衝撃だったようだ。


 メリシャがまず前に立ち、今から神官たちの処遇を申し渡すと告げる。神官たちがざわつく間もなく、神官の身分を剥奪すること、直轄軍団の兵とすることが伝えられると、神官たちの顔色が変わった。

 これまでのような特権はなくなるとしても、神に仕える神官の身分を追われ、一兵卒に落とされるとは思っていなかった。


 さすがにこれに大人しく従う気はないらしく、神官たちはいっせいに抗議の声を上げ始めた。フルリたちがメイスを床に打ち付けて威嚇するが、場はなかなか静まらない。


「…あら、クソ虫どもが何を囀っているのかしら」

 よく通る声とともに、メリシャの隣に立ったのはフィル…ではなく、金色の瞳をした妲己だった。


「お前たちは、すでにバステト神から見放されている。今さら身分を剥奪されるまでもなく、お前たちはもはや神官ではないし、バステト神がお前たちに加護を与えることはない。メリシャが改めて言うまでもなく、お前たちは、すでに何の価値もないクソ虫なのよ。ここまで言えば、頭の悪いお前たちにもわかるかしら?」

「くそ、言わせておけば!」

 フッと鼻で笑い、冷ややかな視線を神官たちに向ける妲己に、前列にいた神官の一人が殴り掛かった。フィルは神官たちと戦いの場にはいなかった。だから、神官は小柄な少女という見た目に騙された。


 メリシャや巫女たちに手も足も出ず捕らえられてなお、巫女たちを召使のように使役してきた感覚が抜けていない。加護で底上げされた、いわばズルをして得た力を自分の実力だと過信し、自分達は強いのだという思い上がりを捨てきれない。

 妲己の挑発は、そんな神官を暴発させるためのものであった。


 ズシャッと鈍い音が響き、血が飛び散った。

「痴れ者が。己の分を弁えなさいな。妾に戦いを挑むなら、まず500年くらいしっかり鍛錬してからにしてくれる?…全く、弱すぎて暇潰しにもならないわ」

 妲己は、手にした大刀を振って刀身の血を払う。ピシャッと血しぶきが飛び、白い小石が敷き詰められた地面に赤い直線を描いた。


 妲己の足元に倒れている神官は、右肩から左脇腹に向けて大きく切り裂かれており、明らかな致命傷だった。

「あらあら。メリシャが命じてもいないのに、勝手に処刑しちゃ良くないわね」

 わざとらしく言いつつ、妲己が倒れた神官に手をかざすと、金色の光に包まれた神官の身体から傷が消えていく。


「…ぐはっ!」

 飛び起きた神官は、何が起こったと言わんばかりに周囲を見回し、つづいて自分の身体を撫でまわした。そして、目の前の妲己を睨み付ける。

「貴様…!」

「無礼者。口のきき方に気をつけなさい」

 声に出した途端に大刀の柄で殴られ、神官は再び地面に這いつくばる。


「さぁ、何回叩きのめされれば大人しくなるのかしら?…大丈夫、その度にちゃんと治してあげる。だから、死んで楽になれると思わないことね。心の底から妾に従うまで、何度でも身体に叩き込んであげるわ」

 ニッと口角を上げた妲己に、神官たちは息を飲んだ。


「メリシャ、夕刻まで時間をもらえる?」

 妲己はメリシャを振り返る。


「…えと、いいけど。……それじゃその頃にまた来るね」

「ええ。きちんと仕上げておくわ」

 と、とにかく…ここは妲己に任せよう。妲己がやけに楽しそうな笑みを浮かべているのが気になったが、メリシャは足早にその場を立ち去った。


 ……そして夕刻。聖所に戻ってみたメリシャが見たのは、予想を超える光景だった。

次回予定「妲己式新兵教育 2」

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