民の治療と神官の処遇 3
民の治療を終えたフィル。残る問題は、捕らえている神官を…処す?
「姐御は、あっしの故郷で目上の女性を敬う呼び名でやす。フィルの姐御には、ローテを治して頂きやしたし、聞けばメリシャ様の育ての親だとのこと。敬意を込めてお呼びするのは当然でやす」
「んー…」
まっすぐに尊敬のまなざしを向けるフルリ。そんなフルリに文句を言うわけにもいかず、フィルは助けを求めるようにリネアに視線を向ける。
「フィル様、良くお似合いだと思いますよ」
「もぉ、リネアまで…」
微笑むリネアに、フィルはがくりとうなだれる。
「姐御とお呼びするのは…いけなかったでやすか?」
しゅんと耳が萎れたフルリに上目遣いに見つめられると、フィルもそれ以上拒絶はできそうになかった。
「わかった……フルリの好きに呼んでいいよ」
「ありがとうでやす!フィルの姐御!」
「はいはい」
嬉しそうに顔を輝かせるフルリに、フィルは苦笑を浮べつつ彼女の頭を撫でた。
「フィル、ちょっと相談があるんだけど」
患者たちのいる部屋から出て来たメリシャが、フィルに言った。
「いいよ。何?」
「捕まえた神官たちをどうするか、なんだけどね」
「メリシャはどうしたいの?…テトは、神官たちを神殿から追放するつもりみたいだけど、メリシャもそれでいいの?」
フィルの問いに、メリシャは否定も肯定もしなかった。
「ボクも神官たちは神殿から出て行ってもらおうと思う。けど、ただ神殿から追放して終わりにするのは反対」
「ふぅん…どうして?」
フィルは興味惹かれた様子で、メリシャに先を促す。
「神官たちを野放しにしたら、その中から、自分達に都合のいい言説を広める奴が出るかもしれない。…もし、神殿を取り返そうとして、テトの名を使って、ボクたちに反抗するよう民に吹き込まれたりしたら…」
メリシャの言葉には実感が籠っていた。
神であるテト本人の言葉が届く範囲はいいが、そうでない場所では神の代弁者たる神官の言葉が、神の言葉に成り代わる。
「…王国みたいになるかもね」
フィルのつぶやきは、少し悲しそうに聞こえた。神の言葉を信じた民衆には、誰の言葉も届かなかった。
「うん。だからフィルにお願いしたいことがあるの」
「…神官どもを皆殺しにする?」
さらりと物騒な発言をするフィルに、メリシャは軽く首を横に振る。
「違うよ。フィルにそんなこと頼まないよ」
メリシャは知っている。かつてフィルは王国のために、その手をたくさんの血で染めてきた。この世界でも、フィルはすでに王国の先遣隊を皆殺しにした。
奴らのしたことを考えれば同情する気もないけれど、だからこそ、そんな連中のためにフィルが手を汚してほしくないとメリシャは思う。
「…そうしておいた方が、後腐れないかもしれないよ。わたしに気を使ってるなら、遠慮しなくていいのに」
フィルもメリシャの気持ちはよくわかっている。だがそれでも、メリシャのためなら手を血で汚すことくらいなんでもない。とフィルは思う。
メリシャが神官どもを生かしておくと言うのなら、それでもいい。けれど、もしも連中がメリシャの邪魔をするようなら、容赦なく粛清するだけだ。
「それなら、わたしにお願いしたいことって何?」
「うん。考えたんだけど、元神官どもをフィルの軍団に入れて、兵士として鍛え直すことはできないかな?」
メリシャの言葉は、フィルの意表を突くものだった。一瞬言葉に詰まったフィルは、すぐにさも可笑しそうに笑い始める。
「神官たちをわたしの軍団に、かぁ…それは思いつかなかった。なるほどね…」
「やってくれる?」
「うん。わたしはいいけど…あとは神官どもの心がけ次第だよ」
「…そこは、うまくやってくれるんでしょう?」
「たぶん。うまくやってくれるんじゃないかな」
「え?…フィルが訓練してるんじゃないの?」
他人事のように言うフィルに、メリシャは慌てて聞き返した。
「訓練はわたしでもいいけど、訓練に入る前に、まず戦士だの神官だのっていう変なプライドをへし折っておくんだよ。そこは妲己に任せてる。妲己、そういうの得意なんだよ。…みんな、すごく従順になって、何でも言うことを聞くようになるんだよね…」
「へ、へぇ…」
ふふっと黒い笑みを浮かべるフィルに、メリシャはちょっと引いた。
次回予定「妲己式新兵教育 1」




