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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第2章 猫神の都
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民の治療と神官の処遇 2

フィルは神殿の中で発症した患者たちの治療に当たる。

「フィル様、お待ちしてました!」

 テトの側に付いていたシェシも、フィルにお辞儀をする。

「シェシはテトのお世話をしてくれているの?」

「はい。フルリちゃんたちは町の人への対応で忙しいので…」


「うん、ありがとうね。…シェシは身体の調子が悪いとか、そういうことはない?」

 避難民の中にも少なからず感染者はいると思った方がいい。リネアやメリシャはともかく、シェシは感染する可能性がある。 


「はい。大丈夫です。テト様のお力で、この神殿の中では疫病が広がることはないそうです」

「ん?…どういうこと?」


「テトは、人を病気や悪霊から守護する神なのにゃ。ムルに閉じ込められて、シストルムを奪われていなければ、ペルバストで疫病の流行なんて許さなかったのにゃ」

 ふふん、とテトは胸を張るが、しばらくするとペタリと耳が萎れる。


「けど、すでに疫病に蝕まれてしまった者までは治せないにゃ。フィル、何とかしてほしいにゃ」

「もちろん。そのつもりで来たんだから任せて」 

 フィルは軽くテトの頭を撫でて、メリシャに尋ねる。

 

「メリシャ、患者は何処にいるの?」

「こっちだよ。ついてきて」


 神殿の奥まった場所にある幾つかの部屋。元々は神官たちの居室だったらしい、寝台が並べられた部屋に、疫病に感染した住民たちが収容されていた。

「フィルの姐御!」

 部屋の前で見張りをしていたフルリが駆け寄ってくる。


 テトのおかげで、神殿内で感染が広がることは抑えられているが、メリシャは念のため措置として、家族と言えど患者との面会は禁止、食事の世話などで部屋に出入りするのはテトの加護を得た一部の巫女だけとしていた。


「フルリ、疫病の人たちは何人いる?」

「へい、全部で50人ほどおりやす」

 元々のペルバストの人口は約2千人。神殿には約千人強が避難している。残念だが、約半数は助けられなかったことになる。それだけ疫病の蔓延が広がっていたということだ。これ以上対応が遅れていたら、かつてのリエステのように、ペルバストも滅んでいたかもしれない。

 それを考えれば、神殿内での発症が50人程度で済んでいるのは、やはりテトの力のおかげなのだろう。


「すぐ始めよう。リネア」

「はい、フィル様」

 フィルとリネアは早速、手近な患者から治療を始めた。やることはローテに施した治療と同じだ。

 テトの加護の下でも発症してしまっただけに、多くの患者は重症化していたが、幸い、神殿がある大河イテルの底に走る地脈は太く、フィルやリネアが力を使っても補給には事欠かない。

 フィルたちによる治療は、さほどの時間をかけることなく終わった。


 寝台に横たわる患者たちは、すでに体内から病原体が除去されているため、感染を引き起こすことはない。さすがにまだ起き上がれる状態ではないが、呼吸は安定しており、穏やかな表情になっていた。

 ただ、元々の栄養状態が悪かったこともあって、体力の低下が著しい。当面は、きちんと食事をとって静養する必要がある。


「お疲れ様でやす。フィルの姐御、リネアの姉さん、こいつを使って下せぇ」

 治療を終えたフィルとリネアに、フルリが冷たい井戸水で濡らした手拭いを差し出す。

「ありがとう、フルリ」

「ありがとうございます」

 手拭いを受け取り、顔や首すじを拭く。冷たさが心地いい。


「…今まで聞き流してたけど、その姐御って何?」

 手拭いをフルリに返しながら、フィルはふと尋ねた。患者の治療でそれどころではなかったが、その聞き慣れない呼び名は、落ち着いてみると気になる。


「へぇ、姐御は姐御でやすが…何か?」

「どうしてわたしが『姐御』なのかってことよ」

 不思議そうに問い返すフルリに、フィルは少し不機嫌そうに口を尖らせた。

「民の治療と神官の処遇 3」

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