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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第2章 猫神の都
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街道整備 2

神官団と戦うはずが、命じられたのは土木作業。不満に感じる兵たちは…

「あなたたちも座ったら?」

「はい」

 フィルの前の地面に座った兵たちは、軍団の中で一番下の世代、10代半ばの若者たちだった。

「で、何が聞きたいの?」


「自分達は兵として戦う訓練をしてきました。どうして、こんな土掘りのような作業ばかりさせられるのでしょうか?神官団を討伐するのではなかったのですか?」

 しばらく顔を見合わせていた若者たちの中、一人が意を決して言った。

「ペルバストの状況が変わったのよ。この作業もペルバストを救うために必要なことだし、軍団の訓練としても必要なことなの。…あなたたちは、兵の仕事は戦うことだけだと思ってる?」


「はい。土掘りや街道の地均しなど、兵の仕事ではないと思います」

「…ふーん、兵の仕事ではない、か…」

 言ってはみたものの、命令に異を唱えたことを咎められると思い、若者たちは身を固くする。


「まぁ、そうだよね」

 フィルは小さく頷いて、若者たちの意見をあっさり肯定した。目的を説明もせず命令している以上、そういう反応は出るだろうとフィルも思っていた。


 アヴァリスを出る時に街道整備の理由を説明することも考えたが、どうせ口で言ったところで大半は理解しないだろうし、4日後とメリシャに約束した以上、時間も惜しい。だからフィルはあえて説明を省き、ただ命令に従わせて作業を進めてきた。


 フィル自身、命令に疑問を持つことは悪い事ではないと考えている。命令にただ盲目的に従うのも一つだが、命令に疑問を持ち、命令の意図を知ろうとするのはむしろ良いことだ。

 一番ダメなのは、命令の意図を知ろうともせず、自分の勝手な判断で命令に背くことだ。


「あなたたちの言う兵の仕事というのは、敵と直接戦って倒すこと、そういうことでいいのかな?」

「はい。そのとおりです」

 ふむ、とフィルは頬に指先を当てる。少し考えて、脇に置いていた自分の食事の包みと水筒を若者たちの前に差し出した。


「これは、どこから届けられたかわかる?」

「…それは…馬車でアヴァリスから運ばれてきています」

 定期的に馬車が食事を運んでくることは、若者たちも知っている。つまらない作業の中で、それが一番の楽しみなのだから。


「そうね。あなたたちが必要とする食料や水は、誰かが運んでこなくてはならない。では、あなたたちが戦場に出かけてメネス王国軍と戦ったとして、決着は1日でつくものかしら?」

「いいえ。そう簡単に勝てるものではないと思います」


「もし、あなたたちの戦う戦場に食料や水を運ばれてこなかったら、あなたたちは飲まず食わずで何日戦える?」

「それは…」

 若者たちは、フィルの手にある食事の包みに目を落とす。正直、激しく戦った後に食事抜きだったら、1日で動けなくなってしまうかもしれない。


「兵は戦い、そうでない者に食べる物を運んでもらえば良いのではないでしょうか?」

「そうね。でも、兵ではない…体力に恵まれていない者が、どれだけの荷物を運べると思う?戦場が町から何日もかかるような場所だったら?」


 無理だ。今のように馬車や荷車が使えるならまだしも、満足な道もない場所にそれだけの食べ物を運ぶことはできない。では、自分達で食べるもの全てを持っていったら…いや、そんな大量の荷物を背負っていては戦えない。ヒクソスの戦士の持ち味である身軽さや速さが失われてしまう。


「戦って勝つためには、ただ敵を倒せばいいだけじゃないの。どんな精強な軍団だって、食べる物や水がなければ、戦う以前に弱ってしまう。それに、王国軍が攻め込んできたら、できるだけ早く迎え撃たなくてはいけないし、敵の数によっては急いで援軍を出す必要があるかもしれない」

 フィルは、そこで一度若者たちを見回し、質問する。

「戦場に人や物を速く大量に運ぶ仕組みがなければ、戦争には勝てない。そのためには、何があればいいと思う?」

 若者たちは、顔を見合わせる。そこまでヒントを出されたら、彼らでも答えに行き当たった。

次回予定「街道整備 3」


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