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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第2章 猫神の都
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シストルム 4

リネアの身に、一体何が…?!

 何が起こったのかわからない。だが、リネアが苦しんでいるのはシストルムのせいに違いない…!


「リネア!」

 倒れた神官たちをかまわず踏みつけて前に出たメリシャは、ジェドエに向かって粘着糸を飛ばした。ジェドエが握っているシストルムに糸を巻き付け、力いっぱい引っ張る。次の瞬間、シストルムがジェドエの手を離れて宙に舞った。


「にゃっ!」  

 すかさずテトが猫のように大きくジャンプして、空中でシストルムをキャッチする。

「取返したにゃ!テトのシストルムにゃ!」

 シストルムを抱き締めて、スリスリと頬ずりしながら着地するテト。


 シストルムを奪われ、慌てて起き上がろうとしたジェドエの首に、メリシャの切断糸が巻き付いた。

「き、貴様…」

 首を締められたジェドエの顔が苦痛に歪む。自分の首を掻きむしるようにして糸を外そうとするが、糸はびくともしない。

 黙ってジェドエを睨みつけ、ギリギリと締め付けを強めるメリシャ。


 リネアが苦しみだした時のメリシャの衝撃は、とても言葉にできない。ティフォンの力を持ち、無敵だと思っていたリネアに、シストルムの力は効いたのだ。

 もしものことなんて絶対にないと思っていた認識が崩れ落ち、もしもリネアの身に何かあったらと思うと、怖くて仕方がない。その恐怖はジェドエへの怒りに変わり、メリシャを突き動かす。


「テト、この男、殺してもいい?」

 メリシャは低い声でテトに尋ねた。シストルムを取り返し、顔が緩みまくっていたテトだったが、ちらとジェドエに目を向けると、眉間に皺を寄せて冷たく答えた。

「…殺すがいいにゃ」


「そこのガキ…シストルムを返せ!」

 大神官たる者が、己の信仰する神に暴言を吐く。その不信心さにふさわしい言葉が、彼の最期の言葉となった。


 メリシャは、無言のまま、ジェドエの首にかかる糸に指をかけると、ピンと軽く弾いた。ビシャッとジェドエの首筋から血が噴き出す。次の瞬間、ジェドエの頭がゴロリと転がり落ち、残った身体もゆっくりと前に倒れていった。

 ジェドエの死体に目を向けることもなく、メリシャは苦しそうに肩で息をしているリネアに駆け寄った。

「リネア、どうしたの?苦しいの?!」

「メリシャ…すみません。こんなみっともない…」

「そんなことない。リネア!しっかりして!」


「メリシャ、大丈夫にゃ。テトに任せるにゃ」

 苦しんでいるリネアの前に立ち、テトが言った。そして、取り戻したシストルムを軽く振る。


 シャランと澄んだ音が響き、場の空気が変わった。

 テトは、シストルムを頭上に掲げ、手首の動きでリズムを刻むようにシャン、シャン、シャン、とシストルムを鳴らす。そして、くるりと身を翻し、ステップを踏み、踊り始めた。

 シストルムの奏でるリズムに合わせ、テトはしなやかに身体をくねらせる。その姿は幼女でありながら、その動きは妖艶さをも感じさせた。


 すると、苦し気だったリネアの呼吸が落ち着きを取り戻し、ゆっくりとその目が開く。リネアはメリシャを安心させるように、まだ弱々しいながら微笑みを浮かべた。

「メリシャ…心配をかけました。だいぶ、楽になってきました」

「リネア…良かった…」

 リネアの声に、メリシャは大きく息を吐いた。


 シャン、シャン、シャラン、シャン、シャン、シャラン…落ち着いて聞くと、シストルムの音は一定のリズムを繰り返している。

 シストルムは楽器に由来する祭具である。あまねく世界の流れを調えるというシストルムが刻むリズムは、この世界の心臓の鼓動に例えられるのかもしれない。

 

 リネアが苦しみだしたのは、シストルムの力によって神殿の下、つまり大河イテルの底にある地脈の流れに狂いが生じたからだ。

 ジェドエが意図したことではなかったが、でたらめに振るわれたシストルムの力が地脈の流れを歪め、地脈と密接なつながりを持つ神獣であるリネアがその影響を最も強く受けた。メリシャが違和感程度しか感じなかったのに、リネアが動けなくなるほどの苦痛に襲われたのはそのせいだった。

 

 だから、ジェドエからシストルムを取り上げても、ジェドエが死んでも、リネアの苦痛は収まらない。もう一度シストルムを使い、狂った地脈の流れを元通りに調えるしかない。

 テトの踊りに合わせてシストルムが刻むリズムで地脈が修復されるにつれて、リネアの身体を締め付けていた苦痛も消えていった。


 シャララン、と大きくシストルムを振ってテトは動きを止めた。

「リネア、どうかにゃ?まだ苦しいかにゃ?」

 心配そうに言うテトに、リネアはしっかりと自分の足で立ち、頭を下げた。


「テト様、ありがとうございました。もう大丈夫です」

「良かったにゃぁ。…今回のことは、できればフィルには内緒にしてほしいにゃ…」

 テトは心の底から安心したように、へなへなとその場に座り込む。


「フィルがこのことを知ったら、こいつはきっと世にも恐ろしい方法で殺されたに違いないにゃ……こいつもさっさとメリシャに殺してもらえて幸運だったかもしれないにゃ」

 テトは、忌々し気にジェドエの死体に目をやる。


「フィルが怒ると怖いにゃ…テトまでとばっちりを受けるのは御免にゃ」

 確かに、フィルがこのことを知ったら、シストルムを処分するとか言い出しても不思議ではない。

「そうだね…」

 テトの中で魔王のようになっているフィルを想像し、メリシャは微妙な表情で応じた。

次回予定「街道整備 1」

久々のフィル様登場です。

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