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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第2章 猫神の都
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パエラの心 3

パエラとの別れの時…

「…あたしは幸せ者だよ。アラクネ族の中じゃ長生きした方だと思うし、フィルさまに、リネアちゃんに、メリシャ、みんなに出会えて、一緒に生きて、本当に…楽しかった。ありがとうね」


 ひとしきり名残を惜しんだパエラは、メリシャをぎゅっと抱き締めると、耳元で囁いた。

「メリシャ…フィルさまとリネアちゃんは、あれで結構抜けてるところもあるから、メリシャがしっかり助けてやらなきゃ」

「パエラ!パエラぁ…!そんなの、無理だよ…ボクにはできないよ…」


「大丈夫。あたしがついてる」

「パエラぁ…これからも、一緒にいてよ…!置いてかないで…!」

 ポロポロと涙を流し続けるメリシャの額に、パエラは軽く口づけする。


「この身は朽ちても、心はずっと、貴女のそばに」

 そう言って微笑んだ顔が、メリシャが見たパエラの最期の姿だった。

 パエラが死ぬところは誰も見ていない。パエラは自らの糸で大きな繭玉を作り、その中に閉じこもって最期を迎えたからだ。

 

 残されたフィルたちが、一晩中3人で抱き合って泣き続け…ようやく落ち着いて小屋の外に出てみると、パエラの繭玉はまるで墓標のように草原の中に鎮座していた。じわりとまた涙が出そうになるのをこらえ、摘んできた花を供え、祈りを捧げた。


 ……それから1年。フィルとリネアは相変わらず森の小屋で悠々自適な生活を続け、メリシャはサエイレムで女王として多忙な毎日を送った。


 パエラの命日に合わせ、メリシャが森の小屋を訪ねてみると、パエラの繭玉は変わらずそこにあった。

 繭玉の前には小さな祭壇が作られており、フィルとリネアが供えているのだろう、季節の花が飾られている。サエイレムの林檎園で採れた林檎を祭壇にお供えし、前に跪いて祈りを捧げる。


「パエラがいなくなって、もう1年になるんだね…リネアがティフォンの力を継いだ時にみたいに、中からパエラが飛び出して来てくれたらいいのにね…」

 メリシャは、懐かしそうに語り掛けながら、繭玉の表面をそっと撫でた。


「…っ?!」

 突然、メリシャの手が触れたところから音もなく繭玉が崩れ始めた。繭玉は白い砂に変わってサラサラと地面に落ちていき、その形が失われていく。


「何?どうしたの?!」

 気配を察してフィルとリネアも慌てて小屋から飛び出してきた。そして、見る見る消えていくパエラの繭玉を呆然として見つめた。


 ほどなくして繭玉は完全に姿を消した。繭玉があった場所にパエラの遺体はなく、繭玉だった白砂の山の上に濃い赤色の宝珠がひとつ。


「これは…?」

 磨き上げられたような艶やかな光沢を放つ宝珠は、メリシャの手のひらに載るほどの大きさで、まるで差し出されるように砂の山の天辺に鎮座していた。


 パエラはこんな宝珠を身に着けてはいなかった。パエラが最期を迎えたはずの繭玉の中に、どうしてこんな宝珠があるのか…不思議に思いながらも、メリシャはそっと手を伸ばして、両手ですくい上げるように宝珠を拾い上げた。

 手にした宝珠からは不思議な温かさを感じる。そして、誘われるように宝珠を自分の胸元に押し当て、愛おし気に抱き締めた。


 …その瞬間、宝珠がカッと強い光を放った。宝珠が染み込むように中に、入ってくる…?!


「メリシャ!」

 叫び声とともにリネアが駆け寄り、ふらりと倒れそうになったメリシャの身体を抱き留める。

「一体…何が…?!」

 リネアに身を預けたメリシャの胸のあたりから赤い光が漏れていた。


 危険な気配は感じない。けれど、何が起こっているのか全く分からなかった。原因はあの赤い宝珠としか考えられないが、それが一体何なのか…フィルにも見当がつかなかった。

次回予定「パエラの心 4」

パエラのが遺した赤い宝珠は、一体何なのか。

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