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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第2章 猫神の都
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バステトの加護 3

テトの加護で、戦う力を授かった巫女たちだが…

「ん?どうかした?」

「もしも、神官たちがここに来たらどうしたらいいのでしょうか。私たちは、フルリちゃんみたいに戦ったことがありません。どう戦えばいいのでしょうか」

「そうだね…」

 メリシャは、むぅ、と小さく唸った。テトの加護を得て、確かに彼女たちの身体能力は高くなった。だが、それと直ちに戦えることは同義ではない。


 一方的に自分を害そうとしてくる相手に対して、人はまずどうするだろうか。

 多くは逃げようとするか、身を隠そうとする。また頭を抱えてその場にしゃがみこむなど、まずは身を守る行動をとる。理由は単純、自分への攻撃は怖いのだ。その恐怖を克服し、反撃という手段をとれる者はさほど多くはない。

 人だけではなく、野生の獣でさえ、自身の危険に対してはまず逃げる、隠れる、という手段をとる。それが本能的な反応だ。向けられた害意に対して、怯まず正面から立ち向かうには、それなりの訓練が必要なのである。

 

 戦いの訓練を積んだ経験があるフルリたちはともかく、他の巫女はテトの加護を得たからと言って、すぐに武器を振るって戦えるようになるはずもなかった。


「やっぱり、怖いよね?」

「は、はい…」

 メリシャを見つめる多くの娘たちの視線。もちろん、メリシャたちを手伝うことに異存はないが、神官たちに逆らうのだと思うとだんだん不安になってきた。

 

 メリシャは周りを見回した。建ち並ぶ倉庫の前には木製の物干し竿がたくさん立てかけられている。


「あの物干し竿、使ってもいいかな?」

「はい…でも、ただの木の竿ですよ」

「それでいいの。長さがあれば。悪いけど、持ってきてくれる?」

 メリシャが言うと、数人の巫女たちが自分の背丈の倍ほどの長さがある竿を、それぞれ2~3本づつ抱えてきた。


「少しじっとしててね」

 メリシャが軽く右手を振った。近くで見ていたシェシには、そうとしか見えなかった。しかし、次の瞬間、巫女たちの持っていた竿の先端が、一瞬にしてスパッと斜めに切り落とされ、カランカランと軽い音を立てる。シェシにも、メリシャが何をしたのかわからなかった。


「簡単だけど、これで槍の代わりにしましょう」

 物干し竿の先端を斜めに尖らせただけの簡易な槍。長さは3mほどもあるが、身体が強化された巫女たちなら軽々と扱えるだろう。


「槍、ですか?」

「うん。一列に並んで、これを身体の脇に抱え、前に突き出してごらん?」

「は、はい」

 ひとり1本づつ槍を持った巫女たちが横一列に並んで、腰の高さに槍を構える。ずらりと並んだ槍衾はなかなかに様になっていた。


 不慣れな兵が集団で戦うのに、最も簡便で効果の高い武器が長槍だ。

 長い槍は物理的に敵との距離を離し、敵への恐怖心を抑えられる。しかも、敵にこちらと同じような長槍や、弓矢などの飛び道具がなければ、相手の攻撃が届かない安全な間合いに身を置きながら戦える。これは不慣れな兵にとって大きな効果だ。

 

「一列に並んで、ただ槍を突き出すだけでいいんだよ。絶対に前に出ず、身を守ることに徹すれば、神官たちもそう簡単には打ち崩せないから」

「ありがとうございます。メリシャ様」

 簡単なものだが、身を守る武器を手にしたことで少し気持ちに余裕が出たのか、緊張して固くなっていた巫女たちの表情が緩んだ。


 倉庫に保管されていた穀物の袋を腰の高さくらいまで積み上げて、作業場を守る即席の防壁を作り、その後ろに巫女たちが並んで槍を突き出す。

 基本動作は、前に突き出して近寄らせないようにするか、振り上げて上から叩く。できれば相手には突き刺さないようにした方がいい。メリシャの説明に、巫女たちは真剣に頷いた。


「あの、突き刺しちゃいけないんですか?」

 大人しそうな巫女のひとりから、物騒な質問が挙がった。戦いに慣れてないのに、突き刺す気は満々だったのかとメリシャは内心苦笑する。それだけ、神官たちに恨みがあるのだろう。


「うん。下手に刺すと、相手の身体から槍が抜けなくなってしまうんだよ。だから、相手を近づかせないように牽制する時は突き出して、近づいた敵を攻撃する時は刺すより叩く方がいいね」

「はいっ!」

 何人かが、ブンブンと音を立てて槍を上下に振った。木の竿とは言え、長い武器で殴られるのは結構な威力だ。巫女たちはテトの加護のおかげで腕力も強くなっているから、十分な攻撃になる。


 その一方で、フルリたちには物干し竿を半分に切って先を尖らせた短い槍を持たせた。こちらは一人3~4本づつ、背中に背負うように括りつけている。開けた場所で守りの戦いをするのとは異なり、神殿の内部で戦うには長すぎる槍は使いにくいし、いざとなれば投擲もできる。

 フルリに聞いたところ、長槍を並べる戦い方は初めて見たが、槍の投擲はヒクソスでもよく行われる戦い方なのだそうだ。


「みんな、十分に気をつけて!絶対に無理はしないようにね」

『はいっ!』

 勢いの良い返事を背に受けつつ、メリシャはシェシやフルリたちとともに、神殿の中へと足を踏み入れた。

次回予定「パエラの心 1」

神官たちとの戦いで、メリシャが見せた武器。それは…

※誤字の指摘ありがとうございます。

助かりますm(_ _)m

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