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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第2章 猫神の都
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ペルバストの異変 4

フィルが語る、疫病により地獄と化した町の惨状…

 町の外では疫病で死んだ者を焼く煙が幾筋も上がっていたが、遺体の処理はそれでも追いつかないらしく、町の通りには行き倒れた死体が放置され、半ば腐った状態であちらこちらに転がっていた。


 屋外にも関わらず強い死臭が鼻を突き、どす黒い液体が排水溝にたまっている。

 激しく羽虫がたかっている家は、さすがのフィルも中を確認する気になれなかった。リネアを連れて来なくて良かったと心底思った。


 まだ比較的新しい死体には、首筋が人の拳ほどの大きさに腫れ上がったり、全身のあちこちに黒い内出血のような痣ができたりと、フィルも初めて見る特徴的な症状が現れていた。


 疫病が最初に発生したとされる貧民街に、すでに生きた人間の姿はなく、代わりに目についたのは大量のネズミ。フィルが歩く先で、人の姿を気にする様子もなく、我が物顔で通りを駆け回り、周りの家々に出入りし、放置された死体を食い荒らしている。


 その光景は、フィルですら吐き気を催し、思わず口を押さえるほど。…フィルは、目についた死体を片っ端から、群がっているネズミごと狐火で焼き払っていった。


 だが、その数はあまりに多く、この町はもうダメだと判断したフィルは、その場で九尾の姿になって空へと駆け上がった。

 そして、念のため自らの身体にも狐火をまとって、疫病の原因を持ち込まぬよう注意しつつ、リンドニアへと引き返したのである。

 

 迅速に国境を封鎖したことが功を奏し、疫病がサエイレム王国に流入するのは避けられたものの、疫病の拡大を抑えるのに失敗し10万人以上とも言われる犠牲を出した帝国は、その衰退を早めることになった。


 後に『黒死病ペスト』と名付けられるこの疫病は、古代から中世そして近世に至るまで何度も大流行を引き起こし、時に一国の人口を半減させるほどの猛威を振るった、史上最悪の感染症のひとつであった。


「この疫病は、感染が早い。もしかすると、ペルバストの中ですでに蔓延しているかもしれない」

「フィルの姐御、この疫病にかかると治らないんでやすか?」

「運が良ければ治る可能性はあるけど…ローテのような状態になったら、わたしが治療しない限り助からないと思った方がいい」

「そんな…!」

 フルリは力なく項垂れ、握った拳で軽く床に叩いた。


 リネアは神殿に行く途中で見かけた町の様子を思い出していた。

「フィル様、ペルバストの町は確かにとても不衛生でした。フィル様が来られる前の魔族街よりひどいかもしれません」

「そんなにひどいの?」

「はい。ペルバストは、様々な土地からやってきた信徒が、それぞれ勝手に家を建て、無秩序に広がった町だそうです。下水や排泄物を処理する仕組みはなく、きれいな水が得られる井戸もありません」

「それは…」

 フィルは絶句する。水道や下水排水の整備はともかく、きれいな水が得られないのは厳しい。

 ペルバストの生活用水は大河イテルに依存しているが、ヒクソスは大河の最下流に位置する土地。汚いとまでは言わないが、清潔な水とはとても言えなかった。

「町の中もひどい匂いが漂っていて、長くは耐えられませんでした」

 辛そうな表情を浮べてリネアは言う。


「なるほど…それじゃ疫病が発生してもおかしくないね。町を治めている神官たちは、それを改善しようとはしないの?」

「たぶん、そんなこと気にしてないと思うよ」

 メリシャの答えに、フィルは大きくため息をついて手のひらを額に当てる。


 どうするか。疫病の治療をするならフィルがペルバストに向かうべきだろう。

 だが、ペルバストは王に従わず、横暴な行いを続けてきた神官どもの拠点…この機会に潰してしまえば良いのではないか。

 周囲への感染拡大を抑えてペルバストだけに被害を留めれば、メリシャの権威を高め、邪魔者の排除もできる。一石二鳥だ。

「それなら、ペルバストを捨て石にして疫病を封じ込める手はずを考えた方がいいかな…」


「ダメだよ、そんなの!」

 ぼそりとつぶやいたフィルに、メリシャは思わず大きな声を出していた。

次回予定「メリシャの意思 1」

フィルの意見に強く反対するメリシャは…

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