ペルバストの異変 2
フィルの態度の理由とは…?
「わかった…どうすればいいの?」
メリシャは素直に応じる。事情はわからないが、フィルの様子はただ事ではない。今はフィルの言う通りにするべきだと思った。
「メリシャは急いでリネアを呼んできて。…あと、あなたはわたしと一緒に来なさい」
「へ、へい!」
フィルのことを知らないフルリも、フィルの声に気圧されるように思わず返事をした。
リネアを呼びに行くメリシャを見送ると、フィルは幼女を手近な部屋に運び、敷物の上に寝かせた。身体を包む布を取ると粗末なワンピースに包まれた痩せた身体が露わになる。
苦しそうに荒い息を吐いている幼女の脇に膝をつき、フィルは厳しい視線で見下ろす。
幼女が病気に侵されているのは明らかだった。特徴的なのは、拳大にも腫れ上がった首筋、そして足の先や腕に現れた内出血のような黒い変色斑。
それは、フィルが昔見たことのある症状だった。
「あ、あの…」
「わたしはフィル。リネアの伴侶で、メリシャの育ての親よ」
「あっしはフルリと申しやす!」
幼女の身体を調べながら短く自己紹介したフィルに、フルリは慌てて頭を下げた。
「フルリ、あなたも服を脱いで裸になりなさい」
そう言いながらフィルは幼女の服を脱がせている。
「え、えぇ?!」
驚いて顔を真っ赤にするフルリを、フィルはじろりと睨む。
「…こんなところで裸になるのは、ちょっと恥ずかしいんでやすが…」
「気にしないで。見るのはわたしとリネアだけだから」
「…うぅ…」
躊躇するフルリに、フィルは横たわる幼女の身体を指した。
「見なさい。首の大きな腫れと手足の黒い痣、わたしはこの疫病を知っている。今すぐ治療しないと、たぶん半日ともたない。そして、この子をおぶってきたフルリもこの疫病に感染している可能性がある。だから、調べなくちゃいけないの。わかる?」
「わかりやした…」
やや早口に言うフィルに、フルリは仕方なく着ていた服を全て脱ぐと、恥ずかしそうに腕で胸と下腹部を隠しながら、フィルの前に立った。
フィルは胸を隠していたフルリの腕を引き剥がし、腕の内側に黒斑がないのを確認すると、脇の下や内腿の付け根を軽く指で押していく。思わず声が出そうになるのを我慢しつつ、フルリは身を固くした。
「フィル様」
戸口に掛けられていた布をめくって、リネアが部屋に入ってきた。
「リネア以外は外で待ちなさい!決して入って来ないように!」
鋭いフィルの声にメリシャとシェシの小さな悲鳴が聞こえたが、フィルはそれ以上何も言わず、リネアに視線を向けた。
「リネア、この子を見て」
言われるままに幼女の身体を見たリネアは、息を呑んで表情を強張らせた。
「これは、…昔、帝国で流行した疫病ですね」
特徴的な症状を見て、リネアもすぐにフィルと同じ結論に至る。フィルがメリシャたちを頑なに遠ざけるのにも納得した。
「うん。今からこの子を治療する。フルリは今のところ症状はないみたいたけど、念のため同じように治療しようと思う」
「はい。私もそれが良いと思います」
頷き合ったフィルとリネアは、まず幼女の治療にとりかかった。
横たわる幼女の両脇にそれぞれ膝をついたフィルとリネアは、両手のひらを幼女の身体に当てた。片手は腫れ上がった首筋に、片手は太腿の付け根に添える。そして、二人の身体が金色の光に包まれた。
過去の経験から、この病気は患者の血などで汚れた物から感染ることがわかっている。ならば、病気の原因となる異物は患者の血の中に紛れ込んでいるはずだ。
フィルの治療は、九尾の力で病気の原因である異物を滅していくものだ。
だが、原因が血の中にあるとなると、以前、モルエの鰓を治療をした時のように患部に直接触れて治療するというわけにはいかない。
だから、フィルは、九尾の力を幼女の身体に送り込み、彼女自身の血の流れにのせて全身に行き渡らせていった。そうすることで、幼女を蝕む疫病の原因を完全に取り除くのだ。
だが、強い九尾の力を体内に受け入れれば、幼女の身体にも相応の負荷がかかる。
そのため、反対側にいるリネアが竜の生命力を注いで、今にも止まりそうな幼女の鼓動に活力を与え、弱った体力を補っていた。
うっすらと金色の光に包まれる幼女の姿を、フルリは固唾を飲んで見守っていた。
次回予定「ペルバストの異変 3」
幼女を蝕んでいた病、それは…




