バステトの事情 3
神官たちが得ていたというテトの加護とは?
「…え?シェシたちの姿は、テト様のお力を頂いたからなのですか?」
そんな話、初めて聞いた。シェシは目を丸くする。
テトの話が本当なら…いや、きっと本当なのだろうけれど…ヒクソスはペルバストでテトの力を得た民が、その後各地に広がってできた国ということになる。
「そうにゃ。そんなことも忘れられてしまったのかにゃ?…テトの神官たちは、何をしていたのかにゃ」
ぷうっと頬を膨らませて、テトを腕組みした。どうやらご立腹のようだ。
フィルは、テトからメリシャに視線をずらす。
「巫女たちの話だと、神官たちはテトの加護を得て、身体能力を向上させているんだよね?」
「うん。そう聞いた」
フィルが気になったのは、メンフィスのオシリス神殿にもムルがあったことだ。そしてその地下には『魂の井戸』と呼ばれる神の力が湧く場所があった。
「オシリス神殿にもムルがあって、そこには巫女長ネフェルがいて、メネス王国の魔術の要とされていた。バステト神殿のムルには、テトが閉じ込められていて、神殿の神官たちにテトの加護が与えられていた。バステト神殿の加護がメネスの魔術と原理を同じくするものだとしたら…?」
「フィルは、テトの加護とメネスの魔術が、同じようなものだと思うの?…でも、メネスの魔術は使い方次第で色々なことができるんだよね?」
「神官たちの場合、加護と呼ばれているのが、身体能力の強化を目的とした魔術だと考えたら、どうかな?…強化魔術の使い方を神官たちだけで独占し、隠しているから、同じ神殿にいながら巫女たちには加護が与えられなかった、そう考えたら筋が通るんじゃない?」
「むー、テトは神官どもに加護を与えたつもりはないにゃ。本当なら、加護はテトが望んだ者にしか与えられないものにゃ。どうしてテトの加護が神官たちに与えられていたのか、テトにもわからないにゃ」
ころりと寝転んでリネアに膝枕されながら、テトは口を尖らせる。
「それは、たぶんムルのせいだと思う」
フィルが言った。
「それはどういうことにゃ?」
「オシリス神殿にあったムルの意味を考えると、ムルっていうのは、神様の力を吸い上げて、外に放出する装置みたいなものだと思う」
「そうかもしれないにゃ。ムルの中にいる間に、テトの力はずいぶん弱くなってしまっているにゃ。本当のテトは、こんなお子様じゃなくて、リネアやメリシャよりもっとぼいんぼいんなのにゃ」
「…」
名前が出なかったフィルは、ちらりと視線を自分の身体に落とし、恨めしげにテトを見るが、テトはどこ吹く風でリネアに撫でられている。
「じゃぁ、テトの力を吸い取って神官たちに与えるためにムルが造られたってこと?」
「ムルを造ったのは、昔の神官たち、ということなのでしょうか?」
「どうだろう…ムルが神官たちにテトの力を与えていたとしても、ムルが造られた目的は本当にそれだけなのかはわからないよ。わたしたちは、まだ知らないことが多すぎるから」
ムルを造り、そこに神を閉じ込めるという暴挙の目的が、本当に加護を得ることだけなのだろうか。どうも腑に落ちない。
だが、テトは閉じ込められた前後のことを覚えていないと言うし、推測するには材料が足りない。やはり、できるだけ早くペルバストに行って、調べてみる必要がありそうだ。
「とりあえず、メリシャの名でバステト神官団の討伐するのはどうかな。神官団の横暴は部族長たちも知っているから反対は少ないだろうし、テトの加護が切れた今なら、わたしが訓練している軍団を送り込めば十分制圧できると思う」
たぶん、リネアとメリシャが乗り込むだけでも制圧は可能だと思うが、横暴な神官団の討伐に王が兵を出したという体裁をとることで、メリシャの権威を高められるとフィルは考えた。
各部族から集めた戦士で編成した新たな軍団は、まだ訓練を始めてようやく一月ほど。ようやく号令に合わせて集団行動ができるようになってきたところだが、そろそろ集団で戦うことも経験させておきたい。神官団の制圧というのは訓練メニューとしても都合が良かった。
「うん、わかった。フィル、軍団の出撃準備にはどれくらいかかる?」
「できるだけ急ぐけど…3日ちょうだい」
「それじゃ、フィルはすぐに軍団の出撃準備に掛かって。ボクは討伐のことを部族長たちに伝えるよ」
「わかった。部族長たちへの根回しはメリシャに任せる。リネアはテトのお世話をお願い」
「はい。わかりました」
フィルはすぐに立ち上がって部屋を出て行き、メリシャはシェシにシェプトとウゼルを呼ぶように頼んだ。
バタバタと周りが動きはじめる中で、テトはリネアに膝枕をされたまま、体を丸めて幸せそうな寝息を立てていた。
次回予定「ペルバストの異変 1」
バステト神官団制圧の準備を始めるフィルたちだったが…




