バステト神 1
神殿にいるという神を探して、玉藻は神殿の奥へ。
神殿に入り込んだ玉藻は、壁をすり抜けながらまっすぐに奥を目指した。リネアが感じた大きな力の源の場所は、玉藻も感じている。
「異界の神か、…ふふ、九尾もサエイレムにとっては異界の神であったな…」
ふと独り言をつぶやく。
さて、この世界の神とやらはどのような者なのか。
玉藻の生きた平安の日本、そこで信仰されていたのは、主に仏であった。玉藻の時代の数百年前に伝わった仏教が広く信仰されていた。
しかし、仏だけが信じられていたわけではなく、日本古来の神々、陰陽道など、様々な信仰が混ざり合ってもいた。サエイレムに終焉をもたらしたあの宗教のように、唯一絶対の神などととは言わず、あらゆる神を受け入れ、内に取り込むおおらかさがあった。
願わくば、ここの神もそうあってほしい。
神殿の奥まで進んだ玉藻の前に、通路を閉ざしている大きな扉が現れた。その先は明らかに厳重に守られた一画となっている。それは神官たちの見張りや警備のことではない。見えない壁のようなものが、神殿最奥部にある何かを覆っていた。
壁と同様に大扉をすり抜けると、そこは四方を列柱が並ぶ石造りの回廊で囲まれ、地面は石畳が敷き詰められた、ほぼ正方形の広場だった。その大部分は、白く磨かれた石で覆われた四角錐状の建造物で占められていた。
高さは周囲の回廊の3倍ほどもあり、つるりとした表面には窓も扉もない。
フィルが見れば、メンフィスのオシリス神殿にあった『ムル』と同じものだと気が付いただろう。玉藻が察知した見えない壁は、そのムルをすっぽりと覆うように張り巡らされていた。
「ふむ……んん?」
ぐるりとムルの周りを一周してみた玉藻は、やや奇妙な事に気付いた。この防壁は、確かに外からムルへの侵入を拒んでいる。だが、同時にムルの中から外へ出ることもできなくしている。むしろ内向きの力の方が強いように感じる。
普通、こうした防壁は外敵から内部を守る為に張られるのだが、この壁は内から外に出ようとする場合にも、同様に強く反発するようだ。
何にせよ、壁を破って中を調べてみないことには確たることは言えぬ。そう考えた玉藻は、メリシャたちと一緒に待機しているリネアに呼びかけた。
(リネア、聞こえるか?)
(玉藻様、何かありましたか?)
すぐにリネアから返事が返ってきた。どうやら向こうは何事もないようだ。
(神とやらがいる場所を、見えない壁のようなものが覆っておる。破るのに力を貸してくれぬか)
(わかりました)
リネアと玉藻は繋がっている。妲己とフィルのように身体そのものを借りることはできないが、繋がりを通じてその力は借りることができる。ティフォンの力を使えば、この防壁も力づくで破れるだろう。
玉藻は目の前の防壁に両手を伸ばす。外からの干渉に反応しているのか、それまで無色透明だった防壁がうっすらと光を帯び始めた。
玉藻は、リネアから流れ込んでくるティフォンの力を集めた両の手のひらを防壁に押し当てる。
防壁に触れた瞬間、バチッと激しい反発が起こった。防壁は外敵を排除すべく、眩しいくらいの光を発しながら玉藻の手を押し返してくるが、玉藻は構わず圧力を加え続ける。
やがて、パキパキと乾いた音を立てて赤い蜘蛛の巣のような光の筋が防壁の表面を走り、そして激しく明滅した後、フッと霧散するように消えた。
(ふむ、壁は破れた。これで神とやらに会えるだろう)
(玉藻様、くれぐれもお気をつけて)
(わかっておる。心配はいらぬ)
心配そうなリネアの声に自身あり気に答える。
「ふむ…」
防壁がなくなり、中にいるであろう神の力もより素直に感じられる。だが、思ったほどに強くはない。まだ何か遮るものがあるのか、それとも本当にこの程度の力しかないのか…
もう一度、ムルの周囲をぐるりと回って様子を見た玉藻は、特に異常がないのを見て取ると、するりと四角錐の中に飛び込んだ。
次回予定「バステト神 2」
神殿の奥で厳重に閉ざされていたムルの中には…?




