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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第2章 猫神の都
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神殿の神様 2

バステト神が本当にいるなら、どうすればいいのか。玉藻の意見は?

「メリシャ、困っておるのはバステトという神のことか?」

「うん。本当に神様がいるんだったら、神官たちを倒すだけじゃダメだよね。…どうしたものかな」

「悩むまでもない。神を味方にすることじゃ」

「神を…味方に?」

 首をかしげながら繰り返すメリシャに、玉藻は頷く。


「そうじゃ。信仰というやつは、まつりごとを行う者にとっては、薬にも毒になる。信じる神の言葉ならば、信者は無条件に従うじゃろう?…さらに言えば、本当に神が姿を現す必要もない。それが『神の言葉』だと信者たちが信じれば良いのじゃ」

 玉藻は、そこで一旦言葉を切り、少しの沈黙の後、再び口を開いた。

「…忌々しいが、サエイレム王国を終わらせたのも『神の言葉』じゃ。メリシャも知っておるように、あの世界にはもう本物の神など居らなんだ。それに、あの連中が説いて回った唯一神とやらが本当にいたのかもわからん。だが、それでも『神の言葉』は多くの者を動かしたのじゃ」


 玉藻は皮肉めいた笑みを浮かべた。

「連中の聖典にも『言葉は神と共にあり、言葉は神であった』という一節があるそうではないか。まんまとしてやられたものじゃ…見ていて歯がゆいほどにの…」


「玉藻は、王国を助けたかった?」

 ふと尋ねたメリシャに、玉藻はやや目を伏せ、すぐには答えなかった。

 嫌なことを訊いてしまったとメリシャが謝ろうとした矢先、玉藻は懐かしそうな笑み浮かべて口を開いた。


「……サエイレムは豊かで平和な良い国じゃった。未練がなかったわけではない。正直、できることなら助けたかった。…だが、一番苦労して王国を育て上げたのは、麿ではなくフィルとリネアじゃ。そのふたりが手を出さぬと言うのじゃから、麿が勝手をするわけにはいくまいよ」

「…玉藻様、ありがとうございます」

 リネアに礼を言われた玉藻は、やや頬を赤らめて扇で口元を隠した。


「こほん、話を戻すとじゃな。もしも本当にバステトとかいう神がおるのなら、其奴をこちら側に引き込めばよい。幸い、こちらには神殺しのティフォンがおる。いざとなれば、脅してでも言うことを聞かせれば良い。もし神の存在が神官どもの出まかせなら、予定通り神官どもを制圧してしまえば良かろうて」


「玉藻様、ティフォンの力に頼るのは最終手段ですよ」

 やんわりと言うリネアに、玉藻はやや拗ねたように口を尖らせる。

「わかっておる。…じゃが、いくら言って聞かせてもわからぬ時は頼むぞ。リネア」

「はい、わかりました」

 リネアはくすりと笑って頷いた。


 一行が川岸に沿って進むと、やがて船着き場に到着した。川に突き出して丸太で桟橋が組まれ、木製の船や筏が何艘か繋がれている。


 川の中州にある神殿への行き来は、両岸にある船着き場から渡し船を使うらしい。

「橋はかかってないんだね」

 石造りの巨大な神殿を建てる技術があれば、橋くらいできそうなものなのに、とメリシャは首をかしげた。


「大河イテルは毎年洪水を起こしやす。だから、橋がかけられないんでさぁ」

 フルリの言葉に、船着き場がずいぶん簡易な造りなのにも納得する。おそらく、川の水位に合わせて場所を変えるのだろう。


「メリシャ様とリネアの姉さんは、荷物の中に隠れて下せぇ。船着き場には神官が見張っておりやす」

 船着き場から少し離れた建物の影で足を止め、フルリが言った。見た目からしてヒクソスの民でないふたりが見つかれば、大騒ぎになる。


「メリシャ、ここはフルリの言うとおりにしましょう」

「そうだね。神殿に入り込むまでは、騒ぎを起こさない方がいいね」

 リネアの言葉にメリシャは頷き、手近の木箱の蓋を開けた。

 

 メリシャとリネアは木箱の中に隠れ、ヒクソスであるシェプトとシェシは神殿への参拝者に紛れて船着き場へと差し掛かる。渡し船に乗るために列をなす人々の先に、門番のように立つ二人の神官が見えた。

 …フルリたちは緊張に身を固くして、船着き場へと近づいていった。

次回予定「神殿の神様 3」

メリシャたちはいよいよバステト神殿へ。


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