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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第2章 猫神の都
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巫女フルリ 3

巫女たちに話を聞くメリシャたち…

 メリシャは、フルリたちと一緒にバステト神殿に向かうことにした。

 道すがら、バステト神殿と神官団についてシェプトやフルリから色々と聞く。

 

 バステト神殿が各部族から巫女を出させるほどに影響力がある理由、それは信仰の中心であるということの他に、神官団が他部族の戦士たちに匹敵する武装集団、つまり僧兵であるということだった。しかもその強さは全体に他部族の戦士を圧倒しており、過去には神殿のやり方に反発して攻め寄せた部族の軍勢を返り討ちにしたこともあるらしい。


「バステト神官団は、時に王の命令にも反抗します。歴代の中で最強とも言われた3代前のヒクソス王が『王と言えど、ままならぬものが3つある。大河イテルの水、ダイスの目、そしてバステトの神官だ』と嘆いたとされています」


 顔をしかめて言うシェプトも、バステト神官団のことはあまり快く思ってはいないようだ。

 彼らは自分達の拠点であるペルルバスト以外に関心がなく、メネス王国の侵攻の際も、神官たちが戦場に出てくることはなかった。

 それどころか、ヒクソスがメネス王国に敗れ、国全体が疲弊する中でも神殿の威光と自らの武勇をかさにきて、巫女や物資の『寄進』を各部族に求め続けている。


「神官がそんなことをしているなんて」

 セト神殿で学んでいたシェシも驚きを隠せない。サリティスをはじめ、自分の周りにいた神官たちとは全く違う。


「そんな連中、神官でもなんでもないよ」

 メリシャはぎゅっと眉を寄せて憤った。


「…あっしたち巫女は、神官には何も言えねぇです…巫女は神官のお世話やお手伝いをするのが役目で、神官とは身分が違ぇやす」

 フルリは悲しそうに言う。先程の神官の態度で想像はついていたが、巫女の立場は相当に低い。巫女と言えば聞こえはいいが、つまりは神官たちの召使いというわけだ。

 シェプトの補足によれば、女性が部族の戦士となった例は稀にあるのに対し、女性がバステトの神官に登用された例はこれまで皆無だそうだ。


「フルリは、いつも私達を庇ってくれるんです。だから、いつもたくさん神官たちに虐められて…」

「神官たちは満足にお祈りもしないで、いつも寄進されたお酒を飲んで騒いでいます」

「寄進された食べ物は、本当はもっと町の人たちに配るべきなのに、良い物は全て自分達のものにしているんです」

 我慢しきれなくなったように、他の巫女たちも口々に言い始めた。

 神官のことを悪く言うなんて、今まではとてもできなかっただろう。でも、神官たちを軽く蹴散らしてみせたリネアが一緒にいてくれることで、神官たちに対する恐れが薄らいでいた。


「本当にひどいですね。巫女の皆さんが可哀想です」

 おとなしいシェシも、さすがに腹を立てたようだ。それほどに神官たちの行いは酷かった。


「あっしは、ほんとは巫女になんてなりたくなかったでやす…あっしは戦士になりたいんでやす」 

 フルリがつぶやいた。フルリは、本当は部族の戦士に憧れて子供の頃から鍛錬を積んできた。でも、娘の身だからと巫女に選ばれ、バステト神殿に送られたのだ。そこで神官たちの横暴と巫女たちの境遇を目にしたフルリは、せめて、神殿の中で他の子たちを守る役を果たそうと思った。


「フルリさん…」

「今でもこっそり鍛錬はしているでやすよ。あと5年もすれば巫女はお役御免になりやす。そしたら、部族に戻って、戦士になれるよう頑張るつもりでやす」

 やや早口にフルリは言ったが表情は冴えない。数年の我慢でお役御免になるのは嘘ではない。しかし、神官たちの仕打ちや厳しい暮らしによって、怪我や病気で命を縮める者も多い。このまま他の巫女たちを庇い続けたら、フルリもいつまで耐えられるか…

 

「フルリが戦士になりたいなら、すぐにでも戦士にしてあげるよ?」

 メリシャは言った。フルリが望むならフィルが訓練している軍団に入れればいい。フルリのような娘なら、フィルもきっと歓迎するだろうし。


「メリシャ様、一度巫女になった者は、お役御免になるまで辞められねぇでやす」

「どうして?神官たちが認めないから?」

 そんなにひどい仕打ちを受けるのなら、巫女たちを神殿に戻さず、このままアヴァリスに連れて帰ってもいいのだが…

「へぇ。巫女がペルバストから外に出ようとすれば、神官たちに連れ戻されやす。…もし、捕まらずに部族に帰れても、巫女から逃げ出した者は受け入れてもらえねぇんでやす」


「部族長たちも、偉そうなこと言ってる割に、バステト神殿に逆らいたくないってわけね…」

 不機嫌そうに言うメリシャだったが、フルリは小さく首を横に振る。

「神殿の神様が、神官たちに加護を与えているので、他の部族も簡単には手を出せないんでやす。あっしもまともに戦えば神官の誰にも勝てねぇですし。…リネアの姉さんがとても強いのは承知しておりやすが、どうか気をつけて下せぇ」


「…え?ちょっと待って、加護って…神様って本当にいるの?」

「バステトの神様は、神殿の奥におられると聞いておりやすが」

 フルリの答えに、メリシャとリネアは顔を見合わせた。

次回予定「神殿の神様 1」

神殿には本当に神がいる…?

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