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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第2章 猫神の都
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巫女フルリ 1

神官を蹴散らしたリネアに、残された巫女たちは…

「あ、あの…」

 さきほどの巫女の少女が、リネアに話しかけてきた。見れば、神官たちに置き去りにされた他の巫女たちも困ったようにリネアを見つめている。


「我慢できずに手を出してしまいました。あなた方には余計なお世話だったかもしれませんね…申し訳ありません」

 リネアは巫女の少女に頭を下げた。


「い、いいえ、そんなことねぇです…その、あっしもスッとしたといいますか…あわわ、今の内緒にしてくだせぇ」

 ブンブンと手を振る少女に、リネアはくすりと笑う。


「さぁ、皆さんが食料をお待ちです。配ってしまいましょう。ただ、みんなに行き渡るように、一人分の量は少し我慢してもらってもいいですか?」

「へ、へぇ!」

 巫女たちは持ち場に戻り、集まった者たちに食料の配給を再開した。だが、リネアの指示どおり一人当たりの量は加減している。もらう方にも文句を言う者はいなかった。


「大丈夫ですか?」

 リネアは、先ほど神官に殴り飛ばされた子供の前にしゃがみこんでいた。シェシより少し年下、たぶん5~6歳くらいの男の子だった。幸い、大きな怪我はしていないようだが、痛そうに肩をさすっている。

「うん…」

 男の子はこくりと頷き、上目遣いにリネアを見つめた。


「お姉ちゃん、食べ物、もらえるの?」

「えぇ、大丈夫ですよ。だけど、どうして列に並ばずに食べ物を取ろうとしたんですか?」

「妹が、待ってるんだ…!」

「え?」


「妹が今朝から熱を出して寝込んでて…せめて何か元気の出るものを食べさせないと!…だから、食べ物を…」

 叫ぶような男の子の訴えを黙って聞いていたリネアは、後ろの巫女を振り返った。


「割り込んで申し訳ないのですが、先に食べ物を分けてもらっていいですか?」

「は、はい、どうぞ!」

 リネアは籠や瓶に入れられている食べ物の中から、干し葡萄やナツメヤシの実、そら豆など、簡単に食べられ、栄養のバランスがとれたものを少しづつ選んで男の子に渡してやる。


「多く差し上げるわけにはいきませんが、これを持って早く妹さんのところに戻ってあげてください」

「う、うん、ありがとう、お姉ちゃん!」

 食べ物の入った袋を持って走っていく男の子に手を振り、リネアはメリシャのところに帰ってきた。


「メリシャ、勝手なことをしてすみません」

「ボクも連中には腹が立ったからね。リネアが怒ってくれなかったら、ボクがやってたかも。…フィルがいたら、全員殴り倒して川に投げ込んじゃってたかもしれないね」

「そうですね」

 その頃、アヴァリスにいるフィルが大きなくしゃみをしていたことなど知る由もなく、ふたりは顔を見合わせて笑い合う。


「あの、ありがとうごぜぇやした」

 リネアが振り返ると、食料を配り終えた巫女たちが並んでいた。代表してリネアに礼を言ったのは、子供を庇って神官に蹴られた巫女だ。

 黒い髪を肩の上で切り揃え、くりくりとした目が感情を正直に映している。


「食料はみんなに行き渡りましたか?」

「へい。量は我慢してもらいやしたが、待っていた皆に行き渡りやした」


「良かったです…そういえば、まだあなたの名前をお聞きしていませんでしたね。私はリネアと言います。アヴァリスから旅をしてきました」

 微笑むリネアに、フルリは恥ずかしそうに名乗った。

「あっしは、フルリと申しやす。バステト神殿で巫女を務めておりやす」


「フルリたちは、いつもあのような扱いを受けているんですか?」

「リネアの姉さん…あっしたちは神官様より弱えぇので…仕方ねぇんでやす」

 フルリたち自身が、神官たちの横暴を当たり前だと思っていることに、リネアは眉を寄せた。


「メリシャ、私はフルリたちをこのままにはしておけません」

「わかってる。神殿には話をつけにいかなくちゃね」

「フィル様をお呼びしますか?」


「ううん、いつもフィルに頼るわけにはいかないよ」

「そうですね」

 メリシャの答えに、リネアはフッと表情を緩めて頷いた。

次回予定「巫女フルリ 2」

巫女たちの事情や、神殿の様子など、メリシャは巫女たちから話を聞きます。

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