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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第2章 猫神の都
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バステト神官団 3

弱い者を虐げる神官に、ついにリネアが怒る!


「かはっ…!」

「巫女風情が神官に意見するなど、思い上がるな!」

 神官の標的が子供から巫女へと変わり、お腹を押さえて咳き込む巫女へと神官の拳が振り下ろされる。


 だが、パシッと軽い音がして、神官の拳は途中で止まった。

「無抵抗の女子供に手を上げるなど、恥を知りなさい!」

 巫女を庇ったのは、リネアだった。振り下ろされた拳を片手で軽く受け止め、神官を睨み付ける。


「な、なんだ貴様は…!」

 神官は顔を歪めてリネアを見た。神殿の巫女たちと歳格好の変わらない少女だ。それなのに自分の拳を掴み、逆にギリギリと締め上げている。神官が思い切り力を込めても、リネアの手はぴくりとも動かない。


 リネアは、そのまま神官の腕を捻り上げた。ゴキリと嫌な音が響き、神官はだらりと垂れ下がった腕を押さえてその場でのたうち回る。

「うぎゃぁぁぁ!」

「肩の関節を外しました。折れてはいませんから、後で入れてもらって下さい」

 リネアは淡々と言うと、痛みに悶える神官には目もくれず、巫女の少女を優しく助け起こした。


「大丈夫ですか?」

「は、はい…ありがとうごぜぇやす…ですが…」

 巫女の少女は、神官の姿とリネアの顔を交互に見て、心配そうな表情を浮べた。


「あーぁ、やっちゃった」

 そう言いながらも、メリシャは軽く笑みを浮かべていた。神官を懲らしめたリネアにスカッとしたのが半分、それでもリネアが自制してくれたことにホッとしたの半分だ。

 神官に歯向かった時点で騒ぎになるのは覚悟したが、さすがにここで流血の惨事はまずい…。神官の腕をもぎ取ることだってできただろうに、肩を脱臼させるだけで我慢してくれて良かった。

 

「姉さん方、早くこの町から逃げてくだせぇ!神官様を傷つけてしまったら、神官団から何をされるかわからねぇです…!」

「ありがとう。私はこんな連中よりは強いですから、大丈夫ですよ。…それより、よくその子を守ってくれましたね。偉いです」

 自分と年が変わらないように見えるリネアに頭を撫でられ、少女は呆気にとられる。


「め、メリシャ様、ど、どうしましょう?」

 シェシが不安そうにメリシャを見上げる。


「大丈夫。シェシのことはボクが守るから、もう少しリネアに任せておこうよ」

 リネアの強さを知っているシェプトは、黙って成り行きを見守っている。

 シェシとて、リネアが負けるなどとは思っていない。むしろリネアが怒りのあまり、ここで竜になったりはしないかと心配だった。


「き、貴様、バステト神殿の神官に逆らうとは…!」

 肩を脱臼させられた神官の悲鳴で、リネアの周りには他の神官が集まってきていた。だが、リネアは平然として神官たちに言う。


「ヒクソスでは、強い者が正しいのではないのですか。そちらの方よりも私が強いのですから、何も咎められる謂れはないと思うのですが」

「強い?卑怯にも不意打ちしただけではないか!」


「自分より弱いとわかっている者に拳を振るう方が、よほど卑怯だと思います」

 神官たちに取り囲まれても全く恐れる素振りのないリネアに、リーダー格の神官が手にしていたメイスを振り上げる。メイスは神官が儀式に使う祭具でもあるが、それは祭具と言うには太く、固い木材を金属輪で補強した、れっきとした打撃武器だった。


 ブンと空気を裂き、リネアを打ち据えるはずだったメイスは、片手であっさりと受け止められた。

「私の方が強いと言ったはずですよ?」

「なっ…!」

 一撃で人を殺しかねない打撃を難なく受け止めつつ、涼しい表情で言うリネア。思い通りにならない状況に、神官は苛立ちを隠さない。


「ええぃっ!離せ!」

「はい」

 怒鳴った瞬間、神官は握っていた杖ごと投げ飛ばされ、後ろにいた仲間の神官たちを巻き添えにした。


 いつも威張っている神官が少女ひとりに手も足も出ない様子は、町の民たちの目にも滑稽に映った。遠巻きに見ていた群衆の中から、くすくすと忍び笑いが漏れる。


「くっ…!…戻るぞ!」

 すぐに起き上がった神官たちだったが、目の前で自分達を睨むリネアにはかなわないと悟ったらしい。更に争って無様に負けるようなことがあれば、恥の上塗りになる。チッと舌打ちして、逃げるようにその場を去ってしまった。

次回予定「巫女フルリ 1」

リネアに助けられた巫女から、話を聞きます。

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