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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第2章 猫神の都
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バステト神官団 2

メリシャたちの前に現れたバステト神殿の神官たちは…

「あれは神官団による配給です」

 シェプトがメリシャに耳打ちした。

 止められた荷車と神官たちの周りには、町に住む人々が集まり始めていた。


「配給?」

「はい。住民たちへの施しです。ペルバストの住民は神殿への奉仕を義務付けられており、自分達の生業を持つことができません。ですから、神官たちは各地から神殿に寄進された食料を住民に配っているのです」

 それではまるで神殿の奴隷じゃないかとメリシャは思った。あまりにも異様な町の在り方に、腹立たしさを覚える。


 それに、神官たちの後ろで荷車を引いていたのは、全員が10代前半に見える少女たちだった。荷車に積まれた食料を下ろしているのも彼女たちで、神官たちは手伝おうともしない。

「シェプト様、あの娘たちは?」

「神殿に仕える巫女たちです」

 リネアの問いにシェプトは答える。リネアはやや憂いを帯びた表情で、じっと少女たちに目を向けていた。


「巫女というのは、神官と同様に神への祈りや儀式を司るのではないのですか?」

「…祈りや儀式を司るのは神官のみ。巫女たちは、主にその…神官の手伝いをします」

「手伝いですか…」

 一瞬口ごもったシェプトの答えに、リネアは何か言いたげな表情を浮べたが、小さくため息をついて口を閉じた。

 その間にも、少女たちは黙々と配給の準備を進めている。結局、準備が終わるまで神官たちは雑談に興じ、一切手伝おうとはしなかった。


「皆の者、これよりバステト神より賜った食べ物を振る舞う。神に感謝して受け取るが良い!」

 神官たちのリーダーと思われる、一際体格の良い神官が厳かに言うと、集まっていた人々が食べ物の入った袋や籠の前に列を作った。

 だが、広場に集まる老若男女の中で、一番こうした配給が必要だろう老人や小さな子供たちは、列に加わることさえせず、じっとその場で待っている。


「お年寄りや子供たちは、どうして並ばないの?」

「それは…」

 メリシャの質問に、シェプトは目を伏せて言いよどむ。


「ここでも、弱い者は後回し、ということですね?」

 低い声で言ったのはリネアだ。その声はメリシャではなく、シェプトに向けられている。


「…仰せのとおりです。リネア様」

「そうですか」

 短く応じたリネアの顔を見て、メリシャは慌ててシェプトに訊く。


「シェプト、食料は皆に行き渡るだけあるんでしょう?」

「…」

 困った表情で押し黙るシェプト。フォローするつもりが、逆の結果になり、メリシャは思わず手のひらで顔を押さえる。


「あぁ、もう仕方ないな…」

「メリシャ様、どうしたのですか?」

 戸惑った顔で見上げるシェシに、メリシャはそっと耳打ちする。

「フィルとリネアはね、あんなふうに子供たちが辛い目にあってるのを見ると、すごく怒るんだよ。今はまだ我慢してくれてるけど…」


「え、あの、でも食べ物は…」

 シェシは、さっきのメリシャの問いに思い至る。後回しにされるだけならまだいい。しかしそのせいで子供たちに食料が行き渡らなかったとしたら…

「きっと…怒るだろうなぁ…」

 メリシャは、顔をしかめて神官たちの方を見た。


 しかし、騒動は食料が尽きる前に起こった。配給を待たず、パンの入った籠にそっと手を伸ばした子供が、それを見咎めた神官の一人に殴り飛ばされたのである。

 確かに、食料を勝手に持ち出そうとした子供に非はある。だが、順番を待ったところで子供たちの番まで食料が残っていそうもないし、ましていきなり殴るなど、やりすぎだ。


 神官に殴られた子供の小さな体は、撥ね飛ばされるように地面を転がり、苦しそうに身体を丸めた。神官は倒れた子供に近づき、さらに拳を振り上げる。


「お、お待ちくだせぇ!」

 そこに駆け付けた巫女の一人が、子供を背に隠して神官の前に跪き、平伏した。


「まだ年端もいかねぇ子供のしでかしたこと。見れば相当に腹を空かせておりやす。まだ何も取ったわけでもねぇですし、どうかお許しくだせぇ!」

 巫女の少女は、地面に手をついて必死に神官に懇願する。だが、神官は、それに一言も答えることなく巫女の脇腹を力任せに蹴り飛ばした。

次回予定「バステト神官団 3」

神官たちの非道な行いに、我慢ならなかったのは…

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