信仰の都へ 3
ペルバストに足を踏み入れるメリシャたちだったが…
斜面を上って小さな丘の上に出ると、目の前にペルバストへと続く道が走っていた。
一応、アヴァリスとペルバストを結ぶ街道らしいのだが、この国の首都と第二の都市を結んでいるにしては、幅の狭い粗末な道だ。もちろん路面はただの地面で、凹凸も多い。
帝国やサエイレムの街道、馬車もすれ違える道幅と石畳の舗装をもつ立派な道を知るメリシャにとっては、こんな道を街道と呼ぶのは躊躇われる。いずれは道の整備もしなくちゃなぁ…とメリシャは内心つぶやいた。
丘の上からは、ゆるやかに流れる大河イテルの支流のほとりにあるペルバストの町が良く見えた。
川の西岸は切り立った崖が屹立し、町は緩やかな斜面となっている川の東岸に広がっていた。町の周りには城壁どころか柵や塀もなく、小さな家々が雑然と建ち並んでいる。
そのお世辞にも美しいとは言えない町並みに比べて目立つのは、川の中州にそびえる立派な石造りの建物群である。
「あれが、神殿なの?」
「はい。バステト神を祭る神殿です」
中州の上にさらに高い石積みの台座を築いて造られたバステト神殿は、壮麗であり堅固。まるで城塞である。実際、川を防御線として籠城されたら、相当な大軍でも攻め落とすのは難しいと思う。
メリシャたちのいる丘とほぼ同じくらいの高さにあるため、建ち並ぶ建物の奥の方は見えないが、アヴァリスにあったセト神殿よりも規模は大きいように見える。
「このペルバストはバステト信仰の中心地。部族を問わずバステト神を信ずる者たちが集まる信徒の町です。しかし…」
「しかし?」
「他の場所とは違い、ペルバストを治めているのは部族長ではなく、バステト神殿の神官団です。主にセト神を祭る王家とは距離を置いており、扱いにくい連中です」
「それで、ここを最初の視察地にしたわけね?」
「お察しの通りです。メリシャ様がヒクソスの変革をお望みならば、必ずバステト神官団と対立することになります。まずは、ご自身の目でお確かめになるべきでしょう」
なるほど、とメリシャを腕組みをして町を見下ろした。シェプトが『扱いにくい』などと言うからには、バステト神官団は王だけでなく、部族長たちにも快く思われていないらしい。
最初に見た、サリティスやセト神官団の扱いを考えたら、ヒクソスの社会では神官にさほどの権威はないはずだ。それなのに、神官団が町を治めているのはどういうことなのか。部族長たちが、それを容認しているのはどうしてなのか。
シェプトに説明を求めてもいいが、まずは先入観なしで町を見たい。神官団のことも、実際に行ってみればわかるだろう。
「シェプト、悪いけど、あなたもフードで顔を隠してくれる?」
マントのフードを被って顔を隠しながら、メリシャが言った。リネアとシェシもフードを被っている。
「それは構いませんが、何をされるもおつもりですか?」
「ヒクソスの民のそのままの暮らしを見たいって言ったじゃない。だから、最初は身分を隠して街を見て回りたいんだよ。…それに、人間に見えるボクが町を歩いてたらおかしいでしょ?」
「は、はぁ…そうですな。わかりました」
軽く頷き、シェプトもフードを被った。ヒクソス製のフードは頭の猫耳に合わせてフードにもぴょこりと三角形の出っ張りがついている。言葉で表すと渋い老人が猫耳フードを被っている状態なのだが、意外にも違和感は薄い。
「それじゃ、行こうか」
メリシャは先頭に立って丘を下り始めた。
だが、ペルバストの町に入ったメリシャたちの目に入って来たのは、外から見る以上に荒れ果てた町の姿だった。
立ち並ぶ建物は日干し煉瓦を使ったものが多いが、全体に作りは粗末で、素人が見よう見まねで建てたと言う印象だ。
雑然と並ぶ家々の隙間を縫うように細い路地が走り、まるで町全体が迷宮のよう。町の中は、昼間だというのに薄暗く、排泄物の臭いや何かが腐ったような臭いが強く漂っている。
信仰を集める古都とは思えない様子に、メリシャたちは驚きを隠せなかった。
次回予定「バステト神官団 1」
メリシャたちの前に、神官たちが現れる。




