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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第2章 猫神の都
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信仰の都へ 2

メリシャは、視察の旅へと出発します。

 翌日から早速、メリシャの領内視察が始まった。

 ティフォンの背に乗るのは、メリシャとシェシ、そして案内役のシェプトだ。

 

 王宮の中庭から、ティフォンの巨体が空へと浮かび上がる。

 見上げて手を振るフィルの姿が、あっという間に小さくなっていった。


「シェプト、まずはどこを見ておくべきかな?」

「行先が決まっていなかったのですか…?」

「ボクは、ヒクソスの国内のことをほとんど知らないからね。シェプトに教えを乞うのが一番だと思ったんだよ」

「はぁ…そうですな…まずはペルバストがよろしいかと」

 メリシャの問いに、シェプトは驚きと呆れの混じった表情を浮べ、少し考えてそう答えた。


「そこは、どんな町なの?」

「ペルバストは、女神バステトが守る土地とされ、ヒクソス全体から信仰を集める、我が国で最も古い都です」


 猫の頭を持つ女神バステトは、人を病気や悪霊から守り豊穣を司る女神とされ、家庭や子供を守る多産の神という側面もある。

 ヒクソスでは、ジャッカルの頭を持つ神セト、猫の頭を持つ女神バステト、ライオンの頭を持つ女神セクメトといった獣身の神が信仰されており、特にセトとバステトの信仰が根強い。


 セト信仰の中心は首都であるアヴァリス、バステト信仰の中心がペルバスト。ヒクソスにおいてアヴァリスに次ぐ第二の都であり、より長い歴史をもつ古都である。


「ペルバストはどっち?」

「南西へ。大河イテルの支流を遡れば見えて参ります」

 会話を聞いていたリネアはティフォンの身体を傾けて針路を修正し、ペルバストを目指した。


「メリシャ様、どうしてこんなに急な視察を?」

 シェプトは少し渋い顔でメリシャに訊いた。初めて視察の話を聞いたのは昨日。そして今日の出発である。どこに向かうのかも、今決まった。

 

 メリシャは、後ろのシェプトを振り返ってにこりと笑う。

「ボクは、ヒクソスの民がどんな暮らしをしているのか、そのままの姿を見たいんだ。…ボクが行くことを先に伝えたら、良いところだけをを見せようとするでしょう?」


 通常、王が訪れるとなればあらかじめ日程や行先を決め、向かう先には先触れを出すものだ。そして、受け入れる側も失礼のないよう、相応の準備をして王を待ち受ける。

 出発するまで行先を決めなかったのも、事前に決めたら、シェプトやサリティスたちが気を回して先触れしてしまうかもしれない、と思ったからだ。


「左様でしたか…」

 シェプトの表情からは困惑の色が抜けきっていないが、一応は納得した様子を見せた。


 ほどなくして、行先にペルバストの町が見え始めた。だが、このまま巨竜が町の上を飛べば、住民はパニックになる。


「リネア、町から少し離れた場所に降りてくれる?」

「わかりました」

 ちょうど町から見て丘の影になる場所を見つけ、リネアは巨体を降下させる。減速するために羽ばたいた風圧で、ぶわりと砂塵が舞い上がるものの、背に乗るメリシャたちに全く衝撃を感じさせることなくティフォンは着地した。

 うずくまるように身を低くしたティフォンの背から、シェシを抱いたメリシャとシェプトが飛び降りると、ティフォンの姿がすぅっと消え、そこにはリネアが立っていた。


「むぅ…なんとも不思議な…」

 巨大な竜が少女へと変わるのを目の当たりにし、シェプトは小さく唸った。リネアが竜に姿を変えるところは王宮でも見ていたが、こうして間近で見ると不思議としか言いようがない。自分の目で見ていなければ、とても信じなかっただろう。


「リネア様は、今のお姿が本当の姿なのですか?それとも、あの大きな竜が本当の姿なのですか?」

 シェシの問いに、リネアは少し困ったような顔になる。


「ご、ごめんなさい。訊いてはいけないことだったんでしょうか?」

「いいえ。そんなことはありません…ただ、どう答えたらいいのか私にもわからなくて、つい困ってしまいました」

 リネアはシェシの頭を撫でながら言う。


「…今の姿も、竜の姿も、どちらも私です。それではいけませんか?」

「いいえ。姿は変わってもリネア様はリネア様です…」

 シェシは、小さく首を振りながら言った。

次回予定「信仰の都へ 3」

アヴァリスに居残りしたので、フィル様、しばらく出番なし…。


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