改革事始め 3
メネス軍を相手に演習を始めたフィル。その作戦とは…
両陣営の準備が終わると、開戦の合図としてドラムが打ち鳴らされた。
合図とともにまず動いたのは、メネス軍の戦車である。
前面に並ぶフィル軍の歩兵目がけて一気に加速して突撃した。
戦車隊の武器は弓である。突撃しつつ、戦車兵たちは次々と前方の歩兵目掛けて矢を放った。
フィル軍の歩兵は突進してくる戦車に対し、素早く両側に散開して矢を避けるとともに、戦車が十分に通れるだけの隙間をわざと開く。勢いのついた戦車は身軽な歩兵ほどに小回りがきかない。武器を打ち合うこともなく歩兵の戦列を通過してしまった戦車隊の先には、大盾を並べた重装歩兵団が待っている。
大盾に対し、戦車兵の放つ短弓では威力が不足し、有効な打撃を与えられない。
それに、重装歩兵の数は戦車隊の5倍。突破力に優れた戦車とは言え、このまま突撃すれば、重装歩兵に行く手を遮られ、そこを後方の歩兵に挟み撃ちにされかねない。
メネス戦車隊は敵中孤立を避けるため、間隔を開けて配置されたフィル軍歩兵と重装歩兵のちょうど中間あたりでスピードを落とし、方向転換を試みた。
その隙を狙い、歩兵たちが反撃に出る。緩やかにカーブを描いてUターンしようとする戦車隊に、歩兵たちは手にしていた短槍を投擲した。
狙いは戦車兵ではなく、それより大きく狙いやすい引き馬や戦車の車体。直撃せずとも、地面に突き刺さった槍に足を取られて馬が転倒したり、車輪のスポークに引っかかって車輪を破壊する。
メネスの二輪戦車はスピードを出すため軽く簡素な構造で、頑丈さや安定性に欠けるという弱点がある。
そのため、転倒した馬に乗り上げたり、片方の車輪を破壊されて横転して、あっさりと走行不能となり、さらに接触を避けるため急停止した後続の戦車には、歩兵が取り付いて戦車兵を引きずりおろした。
メネス軍の指揮官は、戦車隊の突撃失敗を悟ると、直ちに歩兵の方陣を前進させた。それに応じ、フィルは歩兵を下げて重装歩兵を前面に出し、両翼の騎兵をメネス軍の騎兵へと突撃させる。
だがメネス軍騎兵は、フィル軍騎兵と接触すると、あっさりと後退しはじめた。フィル軍騎兵もそれを追撃した結果、主戦場から一時的に両軍の騎兵が消え、歩兵のみのぶつかり合いになった。
戦車隊を失い、騎兵の数でも劣勢なメネス軍は、騎兵を囮にしてフィル軍騎兵を引き離すことで、自軍の歩兵が側面から騎兵に攻撃されるのを避けようとしたのである。
フィルもその意図は察していた。
だが、自軍より劣勢とは言え騎兵の機動力は無視できない。取り逃がせばいつどこから奇襲を受けるかわからない。そのためフィルは自軍騎兵に追撃を継続させ、できるだけ早くメネス軍騎兵を撃破して戦場に戻るよう命令していた。
前進してくるメネス軍歩兵を、整然と並べた大盾で受け止めたフィル軍重装歩兵は、盾の間から槍衾を突き出し、横一線の隊列を維持したまま、メネス軍と対峙した。城壁のように並ぶ重装歩兵を攻めあぐねたメネス軍は、何度も無理な突撃を繰り返して消耗していく。結局、防御を固めた重装歩兵を破れぬまま第一陣がすり潰され、その残存兵を吸収した第二陣が前に出る。
その間に、フィル軍の後方では、前面から下がった歩兵と後衛の重装歩兵が、鳥が翼を広げるように左右に陣形を広げ始めた。戦列は薄くなるが、突破力が不足しているメネス王国軍は、防御に徹するフィル軍重装歩兵を突破できない。
メネス軍の第二陣が前進できずもたつく間に、後方の第三陣が追いついて、メネス軍はひとつの大きな塊となってしまう。
頃合いと判断したフィルは、メネス軍と押し合っている前衛の重装歩兵隊に、隊列を維持したままゆっくり後退するよう命令した。
フィル軍の後退に、自軍の攻撃が効いていると見たメネス王国軍は、正面に兵力を集中してフィル軍を押し切ろうと攻勢を強め始めた。
次回予定「改革事始め 4」
いよいよ演習の勝敗が決する。勝利はどちらに?




