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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第1章 ヒクソスの新王
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改革事始め 2

メネスを侮る部族長たちに、フィルが言ったのは…

「止めよ。メリシャ王の仰せの通り、今は民の生活を回復するのが先だ。メネス王国を侮ってならぬ。そもそも、我らはまだ自らの力で王国と戦ってすらおらんのだぞ」

 ため息交じりにウゼルが言った。

「メネス王国が傾いたわけではないのだ。今は王国がメリシャ様方の力を警戒しているに過ぎん。今のうちにヒクソスも力を蓄えておかなくてはならん。違うか?」

 シェプトも低い声で言う。


「…それは、確かにその通りですが」

 メネスを警戒させているのはメリシャたちの力であって、ヒクソスが自ら戦った結果ではない。武を尊ぶヒクソスとしては、そこを言われると弱い。しかし、だからこそ、王国に攻め込んで華々しい勝利を得たいと思ってしまう。

 そして、今のままではメリシャ王の発言力が強すぎ、部族長たちが蔑ろにされる。そういう懸念を持つ者もいた。


 メリシャの横で黙ってやりとりを聞いていたフィルが、一歩前に出た。

「わかっていないようだから、はっきり言っておく。…わたし達が力を貸さなければ、今のヒクソス軍は王国軍に勝てない。それは断言していい」

 ぴしゃりと言ったフィルに、反論こそしないものの、半数程度の部族長は不愉快そうに表情を歪めた。お前たちは弱い、と面と向かって言われたようなもの。戦士たる彼らにとっては屈辱でしかない。


「いかにウゼル殿を破ったお方の言葉でも、それは聞き捨てなりません。我らがそれほどまでに弱いと仰せられるのか?!」

 先ほどの部族長が言った。思わす立ち上がりかけたところを、他の部族長に押しとどめられている。


「いや、ヒクソスの戦士は弱くはない。ひとりひとりで見れば、王国の兵よりも強いと思う」

 あっさりとフィルは認める。

「ならば、なぜ…!」

「それは、自分が戦うことしか考えない連中が上に立っているからよ」

 フィルは不満げな様子の部族長をじろりと睨む。


「上に立つ者は自分で戦って手柄を上げるんじゃない。兵の犠牲を最小限にして戦争に勝つことが指揮官の手柄なの。自分の手で敵を倒すより、後ろから全体を見て必要な命令を下さなくてはいけない。そんなに自分で戦いたいなら、一人の戦士として好きなだけ戦いなさい。ヒクソスの兵をわたしが指揮すれば、神獣の力を使わなくても王国軍なんかに負けはしない」


 フィルは、部屋の隅で待機していた二人の戦士に声をかけた。

「セベク、セケム、あなたたちから部族長たちに教えてあげて」

「はい」

 フィルの前に進み出た二人は、居並ぶ部族長達に一礼した。

「お前たちは、ウゼル殿の…」

「はい。決闘を汚し、メリシャ王に刃を向けたこと、死罪を覚悟しておりましたが、王に許され、共にメネス王国に行って参りました…」

 

 メンフィスでの滞在中、フィルはホルエムに頼んで近衛兵の一部を借り受け、王国の正規軍と演習をやってみせた。2人はその様子を語り始めた。


 フィルに対するメネス軍の指揮官は、将軍アイヘブの幕僚の一人が務めていた。 

 王城近くの練兵場で向かい合った兵力は互いに100。戦力は同等だが、部隊の内容は双方の指揮官の裁量で少々異なっていた。


 フィル軍は大盾と槍を持たせた重装歩兵が50、歩兵が20、騎兵が30。

 メネス軍は歩兵70、騎兵が20、そして馬が引く二輪戦車が10。


 フィル軍の構成は、兵力こそ少ないが、帝都に閲兵に出かけた時のエルフォリア軍の編成と同じだった。重装歩兵を主軸とし、正面から敵とぶつかるオーソドックスな編成である。


 フィル軍の布陣は、重装歩兵が25人づつの隊列を組んで2列に並び、その前面に少し間を開けて歩兵を配置、その左右両側に15づつの騎兵。

 メネス軍の布陣は、歩兵に30、20、20の方陣を組ませて前後3陣に並べ、最前面に戦車を横一列に配置、左右両側に10づつの騎兵。


 遠くて声は聞こえないが、フィルは自軍各部隊の指揮官を集め、手にした指揮棒で地面に何か図を描きながら軍議を行っている。

 セベクとセケムは、メリシャ、リネア、シェシ、ホルエムと並んで、全体を見渡せる小さな丘の上から両軍の様子を観戦していた。

次回予定「改革事始め 2」

フィル軍とメネス軍の演習が始まります。名将の娘フィルの指揮は…


※古代エジプトでは、当初、馬は戦車の牽引用で、乗馬して戦う騎兵はいなかったとされています。馬自体、エジプトへヒクソスが侵攻した際に持ち込まれたといいます。

 本作では、ヒクソスがメネスの隣国という設定ですので、メネス側にも戦車とともに騎兵が存在する設定としました。

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