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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第1章 ヒクソスの新王
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オシリス神殿 2

ネフェルを探して、オシリス神殿の尾へと進むフィルとホルエムは…

「これは…ムルか?」

 四角錐を見上げ、ホルエムがつぶやいた。


 『ムル』…それは、後に『ピラミッド』という名で呼ばれる巨石建造物である。

 均等な角度がついた4つの面は、『化粧石』という磨き上げられた石灰岩で平滑に仕上げられ、ようやく昇ってきた月の光に仄白く浮かび上がっていた。


「ムルって何?」

「あぁ、メネスの言葉で『昇る』という意味なんだが…こういう建物のことをそう呼んでいる。神がおわすという天界に少しでも近づくようにという意味で、神への礼拝や葬祭の場所として使われるんだ」

 フィルの感じている力の流れは、どうやらこのムルがその中心のようだ。ということは、ネフェルはおそらくこの中にいる。


「なるほどね…ホルエム、あそこが入口かな…?」

 ムルの足元から少し手前の地面に、四角い穴が開いており、緩やかな傾斜のついた通路がムルの下に向かって降りていた。


 通路は、ムルの表面と同じ白い化粧石のブロックで造られており、幅、高さともに人が立って歩くのに十分な大きさだった。

 暗い足元を点々と照らす明かりは、ここまでの建物にあったようなオイルランプではなく、壁の一部がぼんやりと光っている。フィルは明かりの部分に触れてみたが、熱も感じず、仕組みはよくわからない。これも魔術的な何かだろうか。


「フィル、ネフェルは本当にこんなところにいるのか?」

 不安げな声で言うホルエムに、フィルは手を口元に当ててクスクス笑う。

「ホルエム、怖いの?」

「そ、そんなことはない。ただ、とても人が住んでいるような場所には思えないんだが」


「そうね。…でも、力の流れは確かにここから感じる。とにかく、行ってみましょう」

「わ、わかった」


 傾斜を下りきったところで、通路は石の壁によって塞がれていた。だが、完全に行き止まりではなく、壁に人が腰をかがめてくぐり抜けられる大きさの穴が開いている。ここまで来て引き返す選択肢はない。フィルとホルエムは頷き合い、その穴をくぐった。


 穴の先には水平な通路が続いていたが、その様子はここまでとは一変していた。神話を題材にしたと思われる精緻な壁画とレリーフが壁一面にびっしりと描かれ、天井はアーチ型に掘り込まれている。

 確かに美しくはあるが、人の気配が全くないこの場所では、少し不気味に感じてしまう。……まるで地下墳墓のようではないか。


「確かに人が住むような雰囲気じゃないわね…」

「な、なんだ、フィルも怖いのか?」

 笑おうとして頬が引きつったホルエムに、フィルはむすりとした顔を向ける。


「一応、わたしも女の子なんだけど。忘れてない?」

 女の子、だと?…異界の神が何を言うかと思ったが、それを言ったら恐ろしい目に遭う気がしたので、ホルエムは口をつぐむ。


 やがて通路は広間のような空間に行き着いた。中央の通路の両側には彩色された列柱が立ち並び、正面奥は暗がりになっていてよく見えない。

 広間に足を踏み入れる。入口からは列柱の影になって見えなかったが、列柱と列柱の間には長方形の石の箱が置かれている。

 それはどう見ても棺だった。しかも中身入り。蓋のない棺の中には、きらびやかな鎧を身に着け、剣を抱いた兵士のミイラが横たわっている。


「うわ…この国って、死んだ人をこうやって残しておくの?」

 帝国では遺体は火葬するのが一般的だったので、乾燥して骨と皮になった遺体を見たフィルは気持ち悪そうに顔をしかめた。


「あぁ、メネスでは死んだ者の魂は遺体に留まり、永遠の存在になると考えられている。だから、こうして遺体が朽ちないように処理をして、保存するんだ」

「魂が遺体に留まる、か…」

 妲己と玉藻がフィルとリネアの中に居候にしているように、死者の魂がこの世に存在するためには、何かしらの依り代が必要だ。そう考えれば、遺体を保存するという習慣も理解できなくはない。


「でも、どうして巫女が住む場所にこんな遺体が安置されているの?…もしかして、巫女には墓所の番人みたいなの役目もあるの?」

「いや、そんな話は聞いたことがないが…」

 ホルエムが首を傾げた瞬間、物音一つしなかった広間に、金属が擦れるような音が響いた。

次回予定「オシリス神殿 3」

神殿の最奥に鎮座するムル(ピラミッド)。その地下には一体何が…?

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