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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第1章 ヒクソスの新王
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ハトラ 3

メリシャたちとの話をハトラはホルエムに伝えます。

 メリシャたちの部屋を辞したハトラは、王城内の別の部屋へと向かった。

「ハトラ!」

 部屋で待っていた少年が、ハトラに笑顔を向ける。王太子ホルエムである。

「殿下、メリシャ王たちをお部屋に案内して参りました」

 ハトラは優雅に一礼すると、ホルエムの前に座った。


「殿下はもういいだろう?」

「わかりました、ホルエム」

 ハトラはフフッと少し子供っぽく微笑んだ。


「案内にしては、少し遅かったのではないか?」

「はい。メリシャ王たちと少々話をしていました」


「どうだった?」

「はい。わたくしがメリシャ王たちの正体に気付いていること、そしてメリシャ王たちが自分達の力を隠し、別の国が背後にいるように思わせようとしていることを指摘させていただきました」

 楽しそうに言うハトラに、ホルエムは額を押さえた。


「それは、普通ならば口封じされかねないのではないか?」

「はい。しかし、あの方々には正直に接した方が良いかと思いまして」

 涼しい顔でハトラは言う。そして少し表情を引き締めた。


「フィル様は、状況次第ではわたくしたちに力を貸すと言って下さいました。その言質がとれたことが最大の収穫です」

「フィルがそう言ったのか?…メリシャ王ではなく?」

 不思議そうに問い返したホルエムに、ハトラは軽くため息をついた。


「ホルエム、気付いていないのですか?…あのお三方の中で一番上位なのはフィル様ですよ。メリシャ王を立てて前に出ないようにしてはいらっしゃいますが、性格なのでしょうね。隠し切れていません」


「そ、そうなのか?……確かに一番怖いとは思うが…あ、いや、わかった…気に留めておこう」

 王国のことを良くない国だと言った時に、フィルに叱られたことを思い出した。

 今はメリシャを王としているが、おそらくフィルも王として国を率いたことがあるのだろう…ホルエムも納得する。


「それで、メリシャ王たちはメネス王国の現状を知っているのか?」

「はい。わたくしから説明するまでもなく、だいたいのところはお察しのようです。しかし、当面はメネスに介入する暇はないとも言われてしまいました。メリシャ王たちも、まだヒクソスの国内を完全には掌握できていないのでしょう」

「それは仕方がないだろう。いかにメリシャ王やフィルたちがメネスとの融和を口にしても、ヒクソスにはメネスへの恨みが積み重なっている。…それを払拭していくためには時間も掛かるだろう。彼女たちが、無理矢理にヒクソス民を従わせるような手法をとるとは思えないしな」


 戦場で相対するのとは違い、どれだけ強大な力を誇っていても、人の感情はなかなか変えられない。それを無理に力で押さえつければ、反発の元になるだけだ。メリシャ王たちははヒクソス自体を徐々に変えていくつもりなのだろう。


「それに、メネスの問題は本来、我らで解決すべきだ…俺が捕らわれている間、王国はどうだった?」

「はい。ヒクソスへの討伐軍の派遣が準備されておりました。ファラオには、ホルエムは視察中の事故で行方不明としか報告されておりませんので、捜索のため、という名目になっていましたが」

 少し重い口調でハトラは言った。


 討伐軍が攻め込めばヒクソスがホルエムを殺すことも織り込み済みだったはずだ。または、ヒクソスの仕業に見せかけて味方に殺されるか…ホルエムは額に手を当てて唸った。


 それなのに、ホルエムは無事にメネスに戻った。ケレスたちにとっては都合の悪い事態だろう。

 とりあえずはケレス達を刺激しないよう、敗戦のことを父ウナスに伝えることはしていないが、先の出陣自体、ホルエムを亡き者にするために画策されていた形跡がある。

 今後も身辺には気をつけなければ、暗殺の危険は常にあると考えねぱならない。


「フィルたちがケレス達を牽制してくれたおかげで、連中もしばらくは強引手段を控えるだろう。多少はやりやすくなるか…」

「そうですね。そのまま大人しく隠居してくれると助かるのですが…」

 ホルエムとハトラは、ふふ、と小さく声を出して笑い合った。

 

次回予定「ハトラ 4」


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