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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第1章 ヒクソスの新王
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メネス王国へ 3

メリシャ一行は、メネス王都メンフィスに到着します。

 ほどなくして船はメンフィスの港に到着した。

 王国兵が乗った小舟が近づいてきて、付いてこいというようなそぶりを見せる。ここは相手の港、素直に従う事にする。

 広いメンフィスの港は、大河に面した船着き場の他に、掘り込まれた水路が奥へと続き、街の中まで船が入れる構造になっていた。小舟に先導され、船は水路の奥へと進んでいく。


 メンフィスの市街地は、アヴァリスよりも石造りの建物が多く、街路にも石畳が多く用いられている。一般市民の住居と思われる建物は石ではなく日干しレンガのようだが、壁面はきちんと漆喰塗りで仕上げられていた。

 船が進む水路は、遠目に見えた王城の城壁に向かって伸びていた。どうやら、このまま王城の近くまで船が入れるようだ。


 城壁が近づいてくると、水路沿いに立ち並ぶ建物の質も変わっていく。建物に使われている白っぽい石材の表面に、鮮やかな色彩の壁画が目立ち始めた。壁画のモチーフは、メネス王国が信仰する神オシリスを中心とする神話であったり、歴代の王の業績など。赤、青、緑、黄、黒、様々な顔料がふんだんに使われているところに、王国の豊かさが見て取れた。

 

 城壁を目前にしたところで水路は大きく広がり、湖のような風景が広がっていた。手前の市街に面した部分と奥の城壁に面した部分は石積みで整えられているが、両岸は砂浜になっており、立ち並ぶナツメヤシが波打ち際に木陰を落としている。

 少し離れた岸辺にはテラス状に水面に突き出した四阿のようなものもあり、貴族や王族がここで舟遊びに興じたりするのかもしれない。

 

 船は湖を横切り、城壁に開けられた水門から城内へと進む。入ってすぐのところが船着き場になっていた。

 船が着岸すると、岸壁との間に板が渡され、セベクとセケムを先頭に、メリシャとホルエム、そしてシェシ、フィルとリネアの順で船を下りる。


 船着き場には、王国軍の兵が整列して待ち受け、物々しい雰囲気が漂っていた。その中から、立派な革鎧を身に着けた初老の男が進み出た。

 ホルエムが前に出、その後ろに立つメリシャの両脇にセベクとセケムが付く。フィルとリネアはシェシとともに、一番後ろで成り行きを見守っていた。


「殿下、よくぞ無事にお戻りくださいました。…この度は配下の不手際、お詫びのしようもございません」

 男はホルエムの前に跪き、頭を下げる。

「その件は改めて話すとしよう。まずはヒクソスの新王を紹介したいのだが」

「あぁ、ファラオに挨拶したいとのことでしたな」

 思い出したように男は言う。王太子さえ戻れば、後はどうでも良いと言わんばかりだ。

 これがメネス王国におけるヒクソスの立ち位置なのだ。セベクとセケムは怒りの表情を浮かべるが、周りは王国兵だらけ。小さく震えながら感情を押し殺す。


「ホルエム殿、この男は仮にも王国の重臣なのですか?隣国の王にまず挨拶もしないなんて、少々礼節をわきまえぬようですが?」

 さらりとメリシャが言った。王太子に対して目上の口調で話すメリシャに、今度は王国の兵たちが色めき立つ。身体を固くするシェシをリネアがそっと抱き寄せた。


「アイヘブ、こちらは新たなヒクソスの王、メリシャ殿だ。礼を失することがあってはならん。俺も丁重な扱いを受けたのだ」

 …この男が将軍アイヘブか…メリシャはアイヘブを見下ろす。


 アイヘブは、メリシャを紹介するホルエムに信じられないような目を向け、そして悔しげに口元を歪める。それでもアイヘブは、メリシャに向き直って頭を下げた。本心はどうあれ、兵たちの前で王太子に逆らう気は無いようだ。


「申し訳ございません。メリシャ王。我が名はアイヘブ。メネス王国で将軍職に任じられております。王太子殿下を無事送り届けて頂いたこと、お礼申し上げます」


「アイヘブ将軍、出迎え大儀でした。ボクは、この度ヒクソス王に即位したメリシャ。ホルエム殿をお送りするとともに、即位のご挨拶に参りました。ファラオへの取り次ぎを」

 メリシャは、周囲の王国兵が剣呑な視線を向けているのを気にもせず、涼しい口調でアイヘブに応じる。

「承知しました。ご案内いたします」

 アイヘブは固い表情を浮かべて一礼した。

次回予定「謁見 1」

メネス王国のファラオとは、いかなる人物なのか…?

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