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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第1章 ヒクソスの新王
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敗走と人質 3

フィルと対峙する王太子ホルエムは…

 メネスの王太子であるホルエムと、ヒクソス前王の娘であるシェシは、宗主国と属国の関係ではあるが、一応は王族同士。式典などの際に何度か顔を合わせたことがあった。

 だが、まさかこんな場所で出会うとは思わず、互いに呆気にとられる。


「シェシが知ってるなら、本当に王太子殿下のようね……ホルエム、あなたと戦う気はないから、剣を下ろしてもらえない?」

 フィルの言葉に、ホルエムは警戒しながらもゆっくりと剣を下ろした。


「シェシ殿、この者たちはヒクソスの手の者なのか?」

「こちらは、メリシャ様、フィル様、リネア様です……メリシャ様は父シャレクの死を受けて、この度、新たなヒクソスの王になって頂きました」

 シェシの答えに、ホルエムは軽く眉をひそめた。

 ヒクソスで新王が即位したという報告は受けていない。しかも、ヒクソス王は確か武勇に優れた者がなるのではなかったか。どうしてこのような女性が…王となったのか。それに、彼女は他の者たちのような獣の耳や尻尾がない。見た目は完全に人間としか思えないが。


「シェシ殿…ヒクソスは我が国と敵対するつもりなのか」

 お飾りの将とは言え、ホルエムも今回の出陣がヒクソスに圧力をかけ、従属する立場であることを認識させる目的であることくらいわかっている。

 だが先遣隊は全滅し、本隊も逃げ去った。本国がこの事態を知れば、ヒクソスが王国に反抗したと見做すだろう。


「それは…」

 シェシは、一瞬口ごもったが、キッと顔を上げて答える。

「王国軍に襲われたラニルでは、誰一人生き残ってはいませんでした。ラニルの民は戦士ではありません。王国に対して何も害をなすようなことはしていません。それなのに、王国はどうしてあのような酷いことをなさったのですか?!…フィル様がお怒りになったのも当然だとシェシは思います!」


「…そうだな…シェシ殿の言う通りだ…」

 シェシの剣幕に驚いたホルエムだったが、数瞬の後、目を伏せてつぶやくように言った。


「シェシよりも小さな子まで、冷たくなっていました…!王国はどうしてそんなことが平気でできるのですか?!」

 自分はそんな蛮行を望んではいなかった。しかしそれを言ったところでただの言い訳だ。将の立場にあったのは自分であり、麾下の兵達がしたことは自分に責任があるのだ。

「すまない。ラニルの民には本当に申し訳ないことをした」

「…っ!今更謝罪されても、もう取返しはつかないのですよ!」


「シェシ、今はそれくらいで許してあげなさい」

 ホルエムを庇ったのは意外にもフィルだった。

「フィル様…」


「ホルエム、ラニルを襲った兵には、その蛮行に見合う報いを与えた。けれどわたしは、やられた以上の報復をしようとは思わない。だから、あなたが率いていた王国軍の本隊まで全滅させるつもりはなかった」

 王太子である自分に対等…というより目上のような口調で話すフィルに、ホルエムは少し驚く。だが、さほど不愉快とは思わなかった。あの巨大な獣の姿といい、きっと彼女は人間ではないのだ。だとすれば人間の身分など気にしないのも当然…ホルエムはそう思った。


「まぁ、わたしが何かする前に王国軍が総崩れになっちゃったから、手出しする気が失せたのも事実だけど…」

 フィルはそう言って周囲に視線を向ける。王国の兵は全て逃げ出し、残っているのはホルエムだけだった。ホルエムもそれに気付き、剣を鞘に収める。もう抵抗しても無駄だ。


「フィルとやら、俺の負けだ。好きにするといい」

 ホルエムは腰の剣を外してフィルに差し出した。だがフィルは剣を受け取らない。


「それは持ってていいわ。どのみち、そんな武器じゃわたしには傷をつけられないし」

「では、俺をどうする?」

「…そうね、王太子殿下にはこちらの捕虜になってもらおうかな。一応、王国に対しての人質ってことで。…もちろん、酷いことをするつもりはないから安心して。遠からず、王国にも帰してあげるから」

 フィルは王太子がそう悪い人間ではないと感じていた。シェシに部下の蛮行を責められても言い訳しなかったし、フィルを前に一人で踏み止まった勇気もある。


 王国が軍を動かすのに、体のいい神輿として担ぎ出されたのだろう。しかし、同じくらいの歳でサエイレム総督となり、帝国本国を相手にしていたフィルからすれば、神輿に甘んじてしまうあたりはまだまだ…と思ってしまう。

 …さすがに、そこまで求めるのは酷か…。


 フィルは再び九尾の姿となった。ホルエムが思わず息を飲むのを、面白そうに見やる。

「さ、全員わたしに乗りなさい、アヴァリスに帰りましょう」

 

 王国軍を追い返した上に、王太子を捕虜として連れ帰った。それはヒクソスにとって宿願とも言える勝利である。

 だが、アヴァリスに帰ってきた一行を出迎えたサリティス、シェプト、ウゼルは、王太子ホルエムの扱いに困り、思わず頭を抱えるのだった。

次回予定「王太子の処遇 1」

王国軍を追い返し、王太子を捕虜にしてアヴァリスに凱旋したメリシャたちは…

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