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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第1章 ヒクソスの新王
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初戦 3

ラニルの町を全滅させた王国軍に、フィルが追いすがる。

 フィルは九尾の姿となった。リネアは狐人の姿のままメリシャ、シェシとともにフィルの背に乗る。


 フィルは軽く助走をつけて空に舞い上がると、メネス王国軍の姿を求めてラニルから南へと向かう。兵の姿を見逃さないようにあまり高くは飛ばず、地上に目を凝らす。

 そして、樹林が疎らになってきた辺りで、フィルは王国軍と思われる姿を見つけた。


 ラニルの町を襲ったのは王国軍の先遣隊であった。数はおよそ100人ほど。大半は歩兵で少数の弓兵が混じっている。


 先遣隊と言えば聞こえは良いが、その実は拠点確保の名目で小さな村や町を襲い、虐殺や略奪を行うのが彼らであった。やっていることは盗賊団と変わらない。配属される者も、犯罪の懲罰として兵士にされた者や他の部隊で問題を起こした者など。

 真っ先に相手国に入り込み、状況によっては捨て石扱いされる代わりに、そうした略奪行為が黙認されていた。


 彼らからすれば、今回の任務は楽なものだった。戦士もロクにいない小さな町。相手はせいぜい素人が剣を振り回す程度。その分、金目の物も少なかったが、見目の良い若い女は慰み者にし、住民が身に着けている腕輪や指輪などの装身具を奪い取った。

 彼らは隊列を組むでもなく、ぞろぞろと歩きながら、略奪した物を自慢し合っている。後ろから追いすがる大妖狐の姿には誰も気付いてもいない。


 フィルは、先遣隊を先回りして木々の影に着地した。背中のメリシャたちを降ろしてリネアに任せると、フィルは狐人の姿になって彼らの前に姿を現す。

 

「メネス王国の兵だな?ラニルの町を襲ったのはお前たちか?」

 血で汚れた剣や鎧を見れば、犯人が彼らなのは明白だったが、フィルは低い声で問う。


 突然現れた獣人の少女に、兵たちは一瞬驚いた表情を浮かべるが、それはすぐにニヤニヤとした下卑た笑いへと変わった。。

「ヒクソスどもの生き残りか?」

 兵の間から出てきた男が言った。他より多少見映えのする装備を着けている所を見ると、一応指揮官なのだろう。少し離れて見つめているメリシャたちを含め、全員が少女なのを見て、男は剣の切っ先をフィルに突き付ける。


「答えろ。ラニルを襲ったのはお前たちか?」

 だがフィルは表情一つ動かさず、重ねて問う。全く動じないその態度に、男はつまらなそうに顔をしかめた。


「そうだ。だからどうした?お前が、仇でも討つつもりか?」

 それが男の最期の言葉となった。言った瞬間、男の視界は青白く染まり、プツリと意識が途切れていた。


 フィルの手のひらに青白い炎が生まれ、一瞬にして男を飲み込んだ。何が起こったのか理解する間もなく、男の身体は炎の中でボロリと崩れ、ほんの数瞬で燃え尽きた。

「ラニルの民たちの仇だ。全員生きては帰さない」

 無表情で兵たちを見つめるフィルの周りに数十の狐火が出現し、一斉に襲いかかった。剣など役に立たず、弓兵は矢をつがえる暇も無く、王国兵は青い火柱に変わる。


「ば、化け物っ!」

 前に居た者から次々と炎に包まれていくのを見て、兵たちはパニックに陥った。無抵抗の住民をいたぶるばかりだった彼らは、逆に自分たちが襲われる恐怖に耐えられない。慌てて元来た方向に逃げようとするところを、フィルは軽々と跳躍して兵たちの前に立ちはだかる。


「う、うわぁぁぁ!」

 転んだ仲間も構わず踏みつけ、再び踵を返した兵たちは我先にとフィルから反対方向に逃げる。


「くっ…お、お前ら、あいつの仲間か?!」

 少し離れて見ていたリネアたちに気付き、そちらに向かう兵士もいた。人質にでもとろうというのだろうが、化け物が一人とは限らないのである。


「メリシャ、シェシ、私の後ろに」

 静かに言ったリネアは、一瞬で竜人に変わる。振り下ろされた剣を素手で受け止め、握り潰した。そしてくるりと身を翻し、太い尻尾を横薙ぎに叩きつける。兵士は一撃で背骨を折られ、地面に転がった時にはすでに息絶えていた。


「こ、こいつも化け物だぁ!」

 慌てて逃げ去る兵たちをリネアは追わなかった。


「リネア、逃がしていいの?」

 不思議そうに言うメリシャに、リネアは軽く首を振る。

「何かお考えがあるようですから、王国の兵と戦うのはフィル様にお任せします。メリシャとシェシを守るのが私の役目です」


 リネアの視線の先では、大量の狐火をまとったフィルが、逃げる王国兵たちを追い立てていた。フィルはゆったりと歩いているように見えるが、必死に逃げる兵たちはフィルを振り切れない。


 ラニルで奪った戦利品はもちろん、武器までも放り投げて逃げ惑う兵たちを、一人、また一人と火柱に変えていく。あえて一度には燃やさず、へばって足を止めた者から仕留めていく。

 後ろで仲間が燃える音を聞き、逃げる兵たちは更なる恐慌状態に陥る。汗と涙と涎を撒き散らし、さらには下半身からも無様に雫を垂らしながら必死に逃げる。


 逃げる兵を追って森の外へ向かうフィルに、リネアたちも続いた。

次回予定「敗走と人質」

フィルたちは、ついに王国軍本隊を見つける。

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