表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第1章 ヒクソスの新王
158/489

シェシの決意 3

神に頼り過ぎ。そう言ったメリシャは、ある未来を告げる。

「ボク達が神の力を使ってメネス王国を懲らしめたとしても、ヒクソス自身が今のままじゃ、もっとひどいことになるよ」

「…そ、それも、『見』られたのですか?」

 恐る恐る、という様子でサリティスが訊く。


「うん。フィルとリネアが神獣の力でメネス王国を滅ぼした後の未来。当然、役目を終えたボク達はこの世界から出て行くわけだけど、残されたヒクソスが、その後どうなったと思う?」

 フィルもその結末は聞いていない。だが、想像はできた。大きな外敵がいなくなり、強力に国をまとめられるリーダーもいない、そんな国がどうなるか。


 メリシャに見つめられたサリティスもシェシも黙っている。不安げなその表情で、良くない未来を想像しているのはわかった。

「部族同士で争い合う、内乱が始まった。そして、その隙に東からやってきた異民族に侵略され、滅びてしまう…今からたった10年後だよ」

「…そんな!」

 シェシが悲鳴のような声を上げる。

「いくら神の力を持っていても、去った後のことまでは面倒見切れない。神さえ呼べば何でも解決するわけじゃないんだよ」

 メリシャは言わなかったが、妙齢になっていたシェシは、異民族の兵たちに捕らえられ…その末路は言わずともわかるだろう。


「…あのっ!」

 シェシは、ぎゅっと服の裾を握ってメリシャを見つめていた。だが、言いたいことがまとまらないのか、黙り込んでしまう。

 だが、メリシャはシェシの言葉をじっと待ち続けた。


 しばらくして、絞り出すようにシェシは言う。

「メリシャ様…シェシは…自分の命さえ捧げれば、きっと神様が何とかしてくれる、それでヒクソスは助かると思っていました。だから、シェシは生贄になりました」

「そう…」

 メリシャは一瞬言葉を詰まらせ、躊躇うように視線を床に落としたが、すぐに顔を上げてシェシの目を真正面から見つめた。


「…シェシ、命を捨てて神を呼ぼうとした時、それで自分も楽になれると思わなかった?」


 シェシは、しばらくの間ぽかんとした表情を浮かべていたが、やがてその目に見る見るうちに涙が浮かび、頬を伝った。そして、両手で顔を覆ってその場に膝をついてしまう。

「ごめんなさい、メリシャ様…ごめんなさい…!」

 しゃくりあげながら、シェシは身体を震わせる。指の間からポタポタと涙が床に落ちた。


「シェシ…」 

 メリシャはシェシに近づき、その小さな身体を胸に抱き寄せた。

「ごめんね。厳しいこと言ったね」


「いいえ、メリシャ様の仰るとおりです。シェシは、何もできない自分が嫌で、でもどうしていいかわからなくて、だから…」

 生贄になることで、自分の役目をきちんと果たしたと思いたかった。でも、それは全てを放り投げて楽になりたかっただけではないか。シェシはメリシャの胸の中ですすり泣いた。


「シェシは、ヒクソスの民がもっと安心して暮らせるようにしたいって言ったよね。今でもそう思ってる?」

「はい。父様はずっとシェシにそう言っていました。シェシもそうなったらいいと思います。でも、シェシには、そんなこと…」

「わかった」

 メリシャは、シェシの肩を手を置いて少し身体を離す。そして、不思議そうに見上げるシェシに言った。


「シェシ、これからボクたちがやることをちゃんと見てて。わからないことは何でも訊けばいい。…将来、シェシが王様になった時に困らないようにね」

「シェシが王様、ですか?!」

「そうだよ。ボクたちがヒクソスをちゃんと救えたら、あとはシェシに継いでもらう。…ボクもね、そうやってフィルから教わって、フィルの跡を継いだんだよ。これでも、前の世界では百年くらい女王様やってたんだから」


「そう、なのですか…?」

「ボクは、シェシよりも小さい頃にお母さんを亡くして、独りぼっちになったところをフィルとリネアに助けられたの」

「…でも、フィル様やリネア様より、メリシャ様の方が年上に見えます…」

「フィルとリネアは、本当に神様みたいなものだから、ボクが初めて出会った時から姿が全く変わってないんだよ。もう500年以上になるかな…ボクは少し大きくなったけどね」

「500年も……」


「フィルとリネアは、それからずっとボクを育ててくれて、色々なことを教えてくれたの。フィルはすごく強くて、賢くて、リネアはいつも優しくて、温かくて、フィルとリネアがいなかったら、ボクは独りぼっちで死んでいたかもしれないし、運よく生き残れても、何もできなかったと思う。今のシェシと同じようなものだよ」


「メリシャ、ちょっと褒め過ぎ…」

「…恥ずかしいです」

 目を丸くしてメリシャの話を聞くシェシの後ろで、フィルとリネアが俯いて照れている。


「だから、今度はボクがシェシに教える。……偉そうに言っても、やっぱりフィルとリネアには手伝ってもらうことになっちゃうけど」

「そんなこと気にしなくていいの」

「そうですよ。メリシャ」

 少し恥ずかしそうに笑うメリシャに、フィルとリネアもくすっと笑った。


 メリシャの顔を見上げていたシェシは、そっと身体を離してメリシャの前で姿勢を正す。

「シェシ?」

「メリシャ様、シェシはメリシャ様のお側で勉強します。シェシは何をすればいいのか、何ができるのか、自分で考えてみます!」

 そう言ったシェシは、もう泣いてはいなかった。

「うん。シェシ、一緒に頑張ろうね」

「はい。メリシャ様!」

 真っ直ぐに自分を見つめるシェシの髪を、メリシャはそっと撫でた。

次回予定「初戦 1」

ついにメネス王国が動き始めます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ