シェシの決意 2
ヒクソスの建て直しを行うための相談は続きます。
「メリシャが体制を固める間に、わたしはヒクソスの戦士の方を鍛え直すつもりだから」
「鍛え直す?」
「そう。ヒクソスは個人の武勇に拘り過ぎてて、集団で押し寄せるメネス王国軍に勝てない。メネス王国と戦うためには、ヒクソスの戦士にも集団戦を叩き込まないとね」
当然ながらヒクソスとて武勇に秀でた者ばかりではない。これまでのヒクソスは、武勇に秀でていない者は戦いの役に立たないと切り捨てていた。
だが、それでは集団戦には勝てない。武勇の優劣が全てではなく、必要な役割と求められる能力に応じ、限られた兵力を効率よく配置しなくてはならない。
フィルが知っている帝国軍やエルフォリア軍の戦術は、集団戦の最たるものだ。武勇に秀でた一部の者には相応の役割が、そこそこの武勇を持つ大勢にもそれに合った役割がある。それをうまく組み合わせるのが集団での戦いだ。
ヒクソスの戦士たちにも、それができるようになってもらわねばならない。
「わかった。そっちはフィルに任せるね」
「うん。任された。…まずは、戦士どもの無意味なプライドをへし折るところからかな」
フィルは、にやぁっと黒い笑みを浮かべた。
しばらくして、サリティスがシェシを連れて戻ってきた。シェシの表情は緊張で固くなっている。
「リネア様、シェシをメリシャ様の側にと伺いましたが…シェシがお側にいても、何の役にも…」
シェシは戸惑いながらリネアを見上げた。
王の娘であり、サリティスの下で神官としての勉強しかしてこなかったシェシは、侍女としてメリシャたちの世話もできない。正直、どうすればいいのか全く分からなかった。
シェシのことをリネアに任せ、メリシャはサリティスに声をかけた。
「サリティス、早いうちに側近としてボクを手伝ってくれる者を選びたいんだけど。先ずサリティスは協力してくれると思っていいのかな?」
「もちろんです。お役に立てるよう努力いたします」
サリティスは即答した。
「ありがとう。では、明日、シェプトとウゼルを呼んでほしい。二人にも側近の件を相談したいから」
「側近にされるのですか?」
「いいえ、彼らには部族長としての立場があるから側近にはできない。彼らの信頼に適う部族の若者を推薦してもらおうと思ってる」
「なるほど。自身が推薦した者であれば、彼らとしても協力せざるを得ない、と?」
メリシャは軽く頷いて言葉を続ける。
「あと、軍事についてはフィルに任せようと思う。ヒクソスの軍はどうなっているの?」
「各部族の戦士たちの寄せ集めで、各部族の戦士に対する指揮権は部族長が握っています…シャレクもそれで苦労していました」
サリティスはため息をついた。部族の都合などで命令を無視されるようなこともあったのだろう。
メリシャはフィルに目配せする。ひとつ頷いてフィルが口を開いた。
「サリティス、後でシェプトとウゼルにも伝えるけど、わたしはヒクソスの軍そのものを見直すつもり。まず戦士は部族に関係なく能力によって役割を与え、役割毎に部隊を編成する。指揮官ももちろん部族に関係なく選抜する」
それは一つの部隊に様々な部族の戦士が入るということだ。それは実質的に部族長の指揮権を取り上げることに等しい。
「フィル様、それはさすがに部族長達の反発が…」
「反発も何も、それでメネスに勝てなかったから今の状況があるんでしょう?文句があるなら、メネス王国軍に勝ってから言えと伝えなさい」
「はっ…」
やや困惑した表情を残しながらも、サリティスは返事をした。その様子に、フィルは少し厳しい視線を向ける。
…今までのやり方では現状を変えられない。だけど、人間でも魔族でもヒクソスでも、多くの者は急激な変化を恐れ、嫌う。それはわかっているが、現状を変えたいと望み、フィルたちを呼び出した本人が尻込みしていたのでは困る。
「サリティス、とんでもない疫病神を召喚したと思ってる?」
メリシャは、跪くサリティスの前にしゃがんだ。
「神を召喚すれば、その力でメネス王国を懲らしめてくれる、そう思っていたんでしょう?」
「い、いいえ、決してそのようなことは…」
サリティスは口ごもる。正直言えば、メリシャの指摘は図星だった。神の力でメネス王国に対抗し、あわよくばメネス王国に勝利する。そんな未来を期待していた。
「サリティスもシェシも、神様に期待しすぎだよ」
やや突き放すような口調で言ったメリシャに、サリティスだけでなくリネアと話していたシェシもピクリと身を震わせた。
次回予定「シェシの決意 3」
神に期待しすぎだと、シェシとサリティスに言ったメリシャの真意とは。




