シェシの決意 1
ヒクソスの姫であるシェシ。彼女に関わるリネアの提案とは。
「サリティス殿、よろしいですか?」
ウゼルとシェプトが退出した後、リネアがサリティスに声をかけた。
「はっ、なんなりと」
「メリシャとフィル様のお世話は私がしますので、使用人を付けて頂く必要はありません」
メリシャは女王になった時にしばらく離れて暮らしていたこともあったが、フィルのお世話は初めて出会った日からずっとリネアの役目。それは誰にも譲らない。
「よろしいのですか?皆さまのお世話は神殿の巫女たちがいたしますが」
「いいえ。構いません。これは私が好きでやっていることですから、お気遣いは無用です」
微笑みながらも、頑として言うリネアにサリティスも頷かざるを得ない。
「その代わり、というわけではありませんが、シェシを私たちに預けて頂けませんか?」
「シェシを、ですか…」
「はい。シェシはヒクソスの王族です。ぜひメリシャを手伝ってもらいたいのです」
「わ、わかりました。すぐにシェシを呼んでまいります」
「お願いします」
サリティスが部屋を出て行き、メリシャがリネアに尋ねた。
「リネア、どうしてシェシを?」
「シェシには、メリシャのやることを側で見ていてほしいと思います」
「なるほどね…」
フィルはリネアが考えていることがわかったようだ。
「…それって、ボクがフィルを見てたのと同じ?」
「はい。メリシャがフィル様から学んだように、シェシはメリシャから学んでもらえたらと」
メリシャは、フィルが領地を広げ、内政を整え、色々な相手と交渉し、時には力で外敵を退け…そして王国の初代女王となるまで、ずっと側で見ていた。だから、フィルたちが王国から姿を消した後も、女王として立派に国を栄えさせることができた。
フィル達の居場所は知っていたし、全く会えないわけではなかったが、一緒にいた頃のように頼ることはできない。王としての決断は、メリシャがしなければならなかった。
フィルならどう考えただろう。フィルならどうしただろう。フィルのやることを見ていたおかげで、メリシャは為政者としてのノウハウを学んだのである。
「そうだね。ボクたちがいつまでも王様やってるわけにはいかないもんね」
メリシャが王としてヒクソスを率いるのは、この危機を乗り越えるまでだ。国を建て直すことができたら、次代に王座を明け渡してこの世界から去るだろう。その時にはやはり、自分達をここに呼んだシェシに後を託したい。
メネス王国との問題を解決するとともに、武勇ばかりを貴ぶヒクソスの社会も改革し、シェシがヒクソスの女王となれる環境を整えておかなくてはならない。そしてシェシ自身にも女王としての資質を磨いてもらわなくてはならない。
「わかった。ボクじゃ、フィルみたいにはうまくできないかもだけど…」
フィルは、自分より背の高くなったメリシャを少し背伸びして撫でる。
「大丈夫。メリシャはもう十分立派な女王様。わたしたちの自慢の娘だよ。もっと自信持ちなさい」
「ありがとう」
くすぐったそうにメリシャは目を細めた。
「あとは、誰をメリシャの側近に取り立てるか、だけど…」
フィルは真面目な表情で言った。
サエイレム王国の成功は、決してフィル一人の功績ではない。行政の面で支えてくれたテミス、グラム、フラメア。軍事ではバルケス、エリン、ウェルス。密かに諜報や護衛に活躍してくれたパエラとシャウラ。たくさんの側近たちが力を貸してくれたからこそだ。そんなことはフィル自身が一番よくわかっている。
だから、ヒクソスの王に就いたメリシャにも、自身を支えてくれる優秀な側近が必要だ。しかし、少数ながらエルフォリア譜代の家臣がいたフィルとは違い、メリシャはヒクソスの中から信頼できる者を見極めなくてはならない。
「神官長のサリティスや神官団には協力してもらうとして、やっぱりシェプトとウゼルの影響力は利用したいかな。でも、今後のことを考えると、本人たちには部族長として少し距離を置いてもらって、それぞれから信頼のできる若い世代を推薦してもらった方がいいんじゃないかと思うんだけど」
「うん、わたしもそう思う。…誰を側に置くかは、メリシャが自分で選ぶといいよ」
メリシャの答えに、フィルは満足そうに頷いた。
次回予定「シェシの決意 2」
メリシャの側に付くことになったシェシは…。




