メリシャの考え 4
メリシャが見た百の未来、はたして目指すべき国の姿とは?
「…未来を見通す力」
サリティスはつぶやき、そして恐る恐るメリシャに尋ねる。
「メリシャ様、もしやその力でヒクソスの未来もご覧になったのでしょうか?」
「見たよ。でも、ボクが見る未来はひとつに定まったものじゃない。これから起こる色々な選択の先にある百の未来を見るの。その中には、ヒクソスにとって良い未来もあれば、悪い未来もある」
「つまり、我らの選択がどんな結末を招くのか、また別の選択をしたらどうなるのか、メリシャ様には百通りもの結末が見えているということでしょうか?」
「そう」
「では、我らが今後どうすれば良いのか、メリシャ様にはもうわかっているのですね…?」
期待して尋ねるサリティスに、メリシャは少し困ったような表情を浮かべた。そして、代わりにフィルが話し始める。
「この地に来る前…わたし達が生まれ、そして神となった世界には、人間と魔族…ヒクソスと同じ、人間とは少し違う種族たちがいた。そして、人間と魔族は長らく争っていて、多くの人間は魔族を嫌い、多くの魔族は人間を憎む、そんな関係だった」
サリティスは、フィルの語る人間と魔族の関係が、今の自分達とメネス王国とによく似ていると思った。
「でもわたし達は、そこに人間と魔族が一緒に暮らせる国を興し、その国は数百年に渡って平和に繁栄した。メリシャが見たヒクソスの未来の中にも、ヒクソスと人間が一緒に暮らし、平和に栄える未来があった」
フィルの話を引き継ぎ、メリシャが口を開く。
「今度はボクが王になって、ここをフィルが興したような国にしたい。人間を滅ぼすんじゃなくて、ヒクソスと人間が一緒に暮らせる国を目指す。それに賛成してもらえるのなら、ボクたちはヒクソスに力を貸すよ」
シェプトとウゼルは厳しい表情で顔を見合わせた。
メネス王国は先王の仇であるだけでなく、ヒクソスから搾取を続けてきた憎き相手である。人間を全て滅ぼそうとまでは言わないが、王国を滅ぼし、人間達に目に物見せてやりたいというのが本音だった。
「メリシャ様、お言葉ですが、長年に渡るメネス王国への不満と憎しみはそう簡単に捨てられるものではありません」
「しかし、ウゼル殿、それでは!」
慌ててサリティスが声を上げる。
サリティスとてシャレクの仇が憎くないはずはない。しかしここでメリシャ達に見放されたら、これまでと何も変わらない。ヒクソスはこれからもずっと搾取され続ける。
「サリティス、今のメリシャ様たちのお考えを民に話し、賛同が得られると思うのか?」
「シェプト老…それは…」
サリティスは言葉が続かない。確かに搾取に泣く民たちは納得しないだろう。むしろその憎しみがメリシャたちにも向かってしまうことも考えられる。
先ほど、メリシャが少し困った表情を見せたのも、メリシャが目指す未来への選択が、ヒクソスの民の感情と一致しないことがわかっていたからだ。
しばらく沈黙が続いた後、フィルは仕方なさそうに息を吐いた。
「わかった。ウゼルの言う事も当然ね。…わたし達の理想が簡単に受け入れられないのもわかる。どのみち今すぐにメネス王国と仲良く、とはいかないでしょうし、まずは、メネス王国の属国から脱却して対等の関係を目指す、ということでどうかしら?」
「フィル様、それはメネス王国と…人間と戦うということでしょうか?」
シェプトの問いに、フィルは頷く。
「…メネス王国も簡単に属国を手放すとは思えない。当然、戦うこともあるでしょうね」
「よろしいのですか?…そのメリシャ様が仰ったことは…」
遠慮がちにサリティスが訊ねる。
「仕方ないわ。わたしも人間には随分虐められたから、あなたたちの気持ちもわかるつもりだよ。けれど、自分達の意思を通したいなら、ヒクソス自身にも戦ってもらう。王国に勝つためには今までの戦い方を改める必要もあるし、もちろん相応の犠牲も覚悟しなくちゃいけない。それでもいいのね?」
「ははっ!」
「…承知いたしました」
念を押すように言ったフィルに、ウゼルとシェプトは迷いなく返事をし、サリティスは不安そうな表情を浮かべた。
次回予定「シェシの決意」
リネアはサリティスに、シェシをメリシャの側に置くように提案します。




