部族長会議 3
王の座を決める方法とは、やはり…
「良いだろう!その化けの皮、剥ぎ取ってくれる!」
真っ先に名乗り出たのは、やはりウゼルだった。
部族長の中でも上座に座っているとおり、彼は部族長たちの中の有力者である。率いる部族の人口はヒクソスの中でも最も多い。
「では、この決闘、我が立会人となろう」
ウゼルの向かい側、右列の上座に座っていた老人が名乗り出た。
「お爺様…」
シェシが複雑な表情でつぶやいた。老人の名はシェプト。先王シャレクの父である。部族長たちの中で最も年長であり、長老的な立場にいる人物であった。
メリシャが王になるのに対し、ウゼルが反対派、シェシとサリティスが賛成派だとすれば、シェプトは中立派、つまり事態を静観する者たちの筆頭と言えた。
孫娘であるシェシや息子シャレクの盟友であったサリティスの肩を持ちたい気持ちもあるが、メリシャたちが何者なのか、ほとんど何も知らないのだ。そのような者を王に就けるなど、部族を率いる者として軽々な判断は下せない。
シェプトはウゼルに闘わせることでそれを見極めようとしていた。
「ウゼル、良いな?」
「シェプト老、儂が勝ち、この小娘に王となる資格がないとわかれば、儂に賛同してくれるのだろうな」
ウゼルはじろりとシェプトを睨んだ。メリシャを王にと推すシェシはシェプトの身内だ。ウゼルは念を押す。
「わかっている。ヒクソスの今後を決める神聖な決闘に、身内贔屓などせぬ」
「ならばいい…早速、始めようではないか」
大広間の外は中庭だ。奥にある緑豊かな庭園とは異なり、庭と言っても荒い砂が敷き詰められた広場であった。
ウゼルは、部屋の外に待機していた自らの部族の者から、長い柄に三日月型の青銅の刃が取り付けられた戦斧を受け取る。
「この決闘、メリシャが出るまでもないよ。わたしが戦うわ」
フィルがメリシャの前に進み出て、ウゼルはもちろん、広間から出て来た他の部族長達にも聞こえるように言った。そして、うっすらと笑みを浮かべてウゼルを見やる。
見ればメリシャとかいう娘よりも更に若い、せいぜいシェシよりも少し上といったところだろう。
獣の耳と尻尾があるが、体つきは小柄で華奢。ウゼルが一撃でも入れれば身体を真っ二つにされてしまいそうな娘だ。
だが、なぜだろうか。ウゼルは無意識に緊張していた。
「ふん、こんな山猫風情、すぐに叩き伏せてあげる。わたし達に戦いを挑むなんて、身の程を弁えるがいいわ」
「…いいだろう。だが、メリシャとやら、この娘が負けたら貴様の負けだ。我らを謀った罪人として処罰を与える。いいな?」
フィルは鼻で笑い、挑発的な口調で煽る。
ウゼルは不愉快そうな表情を浮かべていたが、フィルに言い返すことはせず、メリシャに決闘の条件を確認した。
「その代わり、フィルが勝てば、ウゼルはもちろん、全ての部族長はボクを王として認め、ボクに従う。そういうことでいい?」
「承知した」
「あぁ、それでいい」
二人の返事を聞いたメリシャは、他の部族長たちに視線を向ける。彼らからも異議は出ない。
「では、これよりフィルとウゼルの決闘を行う!」
メリシャはカツンとウアス杖で床石を叩いた。
「フィル、頑張って」
「えぇ。安心して見ていなさい」
メリシャを見上げる瞳が、紅から金へと変化した。立ち上がった妲己の手に、大刀が現れる。
妲己は、ブンッと大刀を一振りすると、ゆっくりとした足どりで中庭の中央へと進み、ウゼルと対峙した。
自分よりずっと背の高いウゼルを見上げ、妲己はその様子を観察する。
焦げ茶色の髪の上には猫というより豹のような耳、体つきは人間の大男のイメージより少し細身で、しなやかさが感じられる筋肉の付き方だった。
ウゼルは、黙って手にした戦斧を構えた。その構えに油断はない。その目は真っすぐに妲己を見据えている。妲己も表情を引き締めて大刀の切っ先をウゼルへと向けた。
次回予定「メリシャの考え 1」
ヒクソスの王位を賭けて、妲己とウゼルがぶつかる…!




